キノコが苦手ってやつじゃないくて?
2020年01月25日
史上最年少記録を破りプロ棋士としてデビューし、その後も破竹の勢いで数々の最年少記録を打ち立て続ける棋士の藤井聡太氏。
そんな藤井聡太氏を幼い頃から見守り続けてきたのが、師匠として知られるプロ棋士の杉本昌隆氏。「幼いころ、将棋で負けると盤を抱えて泣きじゃくっていた」と
改装回想する同氏の新著『悔しがる力』より、知られざるその素顔にを明かした一節を紹介する。※本稿は杉本昌隆氏『悔しがる力』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
「悔しがる」のも全力
この領域では絶対に負けない、どんな時も本気で取り組むという姿勢は、当人だけではなく周りにいる人間をも熱くします。藤井と接していると、折に触れてそういう瞬間を味わいます。
将棋会館の控室は、普段は棋士のたまり場になっています。研究会をしたり、一人で詰将棋を解いたりしています。
朝九時半ごろ、その控室に行くと、朝から研究をする人たちでいっぱいです。座る席がなくて困りました。「あれは困るね」と藤井に言うと、「そうですね」と賛同してくれます。(やっぱり藤井も座れなくて困るんだな)と思いながらよく聞いてみたら、全く見当違いでした。
「詰将棋の問題を見てしまったら解かずにはいられません」
と言います。つまり詰将棋を目にした途端、本能的に解こうとして、解くまで気がすまない。
へーっ、さすが「詰将棋解答選手権」五連覇の達人。衝撃のエピソードでした。
ちなみに私は詰将棋を見ても、ハナから解こうとは思わないのでまったく困りません。同じ状況に直面して、同じように困っても、その中身が全然違います。
詰将棋では、つい最近も藤井の本気に触れました。
あるイベント。七手詰めの1分早解き競争で私と藤井、中澤沙耶女流初段の3人が勝負をしました。
最終手を答える形式で、私たちは1問正解につき1点、詰将棋解答選手権覇者の藤井は0.5点というハンディを背負ってのスタートです。
先に答えた私は9問正解。まずまずの数ですが、これで藤井の闘争心に火が付きました。
「師匠にたくさん解かれたので(頑張ります)」
藤井の本気が会場内に伝わります。全神経を集中させ、問題を見ると同時に解きまくる。才能がほとばしります。1問数秒でクリアし続け、なんと17問正解しました。
しかし……勝負はハンディが響いて0.5点の差で私の勝ちとなりました。
「詰将棋で師匠に負けて悔しいです」
よほど悔しかったのか、感想と閉会の挨拶などで3回もこのセリフを口にしていました。
内容的には藤井の完勝です。でも「勝負」と設定した以上、それがどんなに困難でも全力で取り組む。そして全力で悔しがる。
その熱い情感は近くにいて火傷しそうなほど。「本気になる」ことの大切さを感じさせる出来事でした。
なぜか大切なものを忘れてしまう
ここだけの話ですが、藤井の弱点をお教えしましょう。
といっても、将棋をめぐることではありません。まず忘れ物が多いです。棋士は意外と忘れっぽい人が多い。かくいう私もそうです。
最近は電車の切符をよくなくします。
藤井もうっかりに関してはなかなかのものです。先日は、私の教室に大事な将棋の図面を置き忘れていました。
けっこう忘れているのがカバンです。学校帰りに、あるお宅を訪れた際、学生カバンを忘れて帰りそうになり、「藤井さん、忘れ物ですよ」と声を掛けられて気づきます。
私のマイカーの中に荷物を置いて食事をした後、そのまま帰りそうになり、私もそれを忘れていて、お互い別れを告げた後、もう1人が、「いや、藤井さん、カバンカバン」と気がついてくれました。うっかり師弟ですね。
賞金ランキングベスト12人が争う8月の将棋日本シリーズJTプロ公式戦に向けて藤井は和服を着ることにしたのですが、本人は例によって興味がありません。物欲が極端にないタイプかと思います。色や柄も私とお母さんの趣味で決めました。黒に近い紺です。
あるお店に入った際、あんみつとみつまめで「これはどこが違うのでしょうか」と迷っていました。珍しいから頼んでみようとか、とりあえず頼むといったタイプではありません。これにはこの食材が入っていて、こっちは別の材料で……と理解してから頼むタイプです。
ちなみに1回目はあんみつ、2回目はみつまめを頼んでいました。彼の探求心はこんなところにも表れています。
対局日の食事メニューは毎回かなり変えています。本人も「長考してしまう」と言っていましたが、たしかに将棋より迷っているかもしれません。
一時、藤井が注文したメニューはテレビやネットですぐに報道されていました。リアルタイムで注文のシーンが流れた時は、多くの視聴者が「同じものを食べたい」とそのお店に電話をかけ、具材が品切れになってしまって当の本人がそれにありつけなかったこともありました。
藤井の宣伝効果恐るべしです。
ちなみに注文メニューやお店を毎回のように変えるのは、もしかするとそれぞれの店に対する配慮では? と私は考えています。
どんな場所でも注目されてしまう苦労
研究会の後、藤井を含めた数人で焼き肉を食べに行ったことがあります。
藤井の17歳の誕生日が間近だったので、焼肉屋さんにそれを伝えて予約をしました。すると、わざわざ奥の予約席を用意してくれて、
「これはお店からのサービスです」
「17」の数字をかたどったろうそくが灯るバースデーケーキが運ばれてきました。予想外のサプライズです。
「誕生日のろうそくを吹き消すのは10年ぶりです」
藤井は困惑しつつ少し照れながらろうそくを吹き消していました。
特別な記念日ではなくても、藤井と食事に行くと、注文していない料理が出てくることがちょくちょくあります。
「頑張ってください」
行きつけの洋食チェーンのお店では、唐揚げの盛り合わせを頻繁にサービスしてくれます。
注文した食べ物が来ずに、サービスの品が続いて驚いたこともありました。
やはりよく行く和食チェーンのお店。藤井と一緒に行くと、女将と料理長がわざわざあいさつに来られました。
「杉本様、本日は当店をご予約いただき、誠にありがとうございました」
文章にすると、いかにも私が歓迎されているようですが、お店の二人の視線の先は明らかに藤井のほうです。
ちなみに私はこの店を何度か訪れていますが、藤井以外と行っても、こんな歓迎をされたことはありません。
こんなとき、私に気を遣ってか、藤井は目を伏せて無関係を装っています。
(いや、「杉本」はそちらの少年でなく、こちらなのですが……)
これは私の心の中の声。
どんな場所でも注目されてしまう。一緒にいると藤井の大変さや気の休まらなさがよくわかります。
もしかしたら当人からすると、気持ちはありがたいけれど、そっとしておいてほしい、ほかの人と同じように対応してほしい、と思っているかもしれません。
近頃はなるべくすいているお店に行くようになりました。
情報源:師匠がこっそり教える藤井聡太七段の「意外な弱点」 | PHPオンライン 衆知|PHP研究所
師匠がこっそり教える藤井聡太七段の「意外な弱点」 杉本昌隆(棋士) https://t.co/M0Wb8mfexw pic.twitter.com/mTQ2QQ3KTQ
— PHPオンライン編集部 (@PHP_shuchi) January 24, 2020
ほぉ・・・