ふむ・・・
2019年9月26日 20時0分
王将失冠から7ヶ月。
タイトル奪還への前哨戦、王将リーグが開幕した。何百、何千の勝ちと負けを重ねた男の顔には、揺らぐことのない自信と信念がにじむ。
目じりに刻まれた深い笑い皺からは、酸いも甘いも噛み分けてきた包容力を感じ取れる。「人と違うほうが心地いい」―。
振り飛車党のトップランナーは、静かな声にプライドを漂わせる。「才能」の定義とは―?
「努力」って、何なのでしょうか―?
深い好奇心と広い視野から、久保が示した回答には誰もが納得するだろう。シリーズ第5弾は、王座奪還へ再び立ちあがる44歳の矜持に迫る。
撮影/吉松伸太郎 取材・文/伊藤靖子(スポニチ)
今年度は9勝9敗の計18局。勝率は約5割です。久保先生としては納得できる数字ではないと思われますが、まずは前半戦を振り返っていかがでしょうか?
そう…ですね。良くもなく悪くもなく、という感じですけど(笑)。順位戦の結果(ここまで0勝3敗)が残せていないのが自分の中では残念なシーズンとなっています。
そのうえ、年始には残念ながら王将位を落とすというところからのスタートとなりました。愛着のあるタイトルということも常々おっしゃっていましたが、やはりガッカリした気持ちも大きかったのでしょうか?
やっぱりタイトルホルダーから普通の段位に戻るというのは、残念な気持ちは大きかったですね。
誰もが久保先生がまさかストレートでの奪取を許すとは想像できませんでした。
そうですね。力不足だったんですかね。
そこからの立ち直りというお気持ちの面ではいかがでしょうか? 昨年のインタビューではメンタルトレーニングを取り入れられていることも伺いました。
そのときは沈んでましたけど、幸い新たなシーズンに入りましたし、その辺の切り替えはできているかなと思います。
この1年を見ると、タイトルの防衛というのが難しい年だったんだなと思います。9月20日現在では棋王戦以外は挑戦者が奪取というという結果となっています。どんなところに理由があると感じられますか?
タイトル戦というのは、基本的に1年間でいちばん強い人、勢いのある人がチャレンジャーとして出てくるのでね。タイトルホルダーは1年間その棋戦は待っているだけの立場ですが、当然ながら準備はするんです。でもやっぱりトーナメントやリーグ戦を勝ち上がってきた勢いという部分だと、どうしても挑戦者に分があるという流れが続いているのかもしれません。シードが増えて対局数自体が減るので調整が難しくなる、というのを言いわけにしてはいけないんですけどね。
ポジティブな部分では、今期は“藤井(聡太七段)キラー”というところでその名を轟かせていらっしゃいます。
短期間に当たりすぎですよね(笑)。ある程度、対局数を増やしてきたので、どういう棋風なのか、わかってきたというところが大きいと思います。
今期の変化という部分では棋士会の役目を引き継ぎ、大役を終えて一段落となったと思います。関西での「将棋まつり」を復活させるなどの功績に加え、大きな将棋ブームの到来、そしてタイトルホルダーと並行しながらのお仕事はご苦労も多かったと思います。
始めたときの目標は、「将棋まつり」の復活というところを自分の中で掲げてやってきました。実際それを実現できた点では良かったなと思います。
ただ、棋士会の役員をやってみてよくわかったんですけど、いろいろと自分の中で苦手な部分もあったりして、始めの2年は室田(伊緒女流二段)さん、後半は畠山(鎮八段)さんに負担をかけてしまったかなというところもあります。
傍から見ているぶんには、久保先生が中心にいらっしゃることによる安定感というところがあったのではないかなと思います。
そういう意味では役に立ったかなとは思いますけどね。裏方の事務的な部分も棋士会が動いてやらないといけないんですけど、そういうことは全然です。他の人に頼りすぎてしまったなというのがあります。
任期中のことを振り返っていただいて、点数をつけるならどのくらいの自己評価になりますか?
目標としていた「将棋まつり」を復活できたので100点満点中80点くらいをあげてもいいかなと思います。
棋士会の副会長を糸谷(哲郎八段)先生に引き継がれました。糸谷先生は、畠山先生からの「やれ」というひと言にふたつ返事で副会長を引き受けられたと伺いました。
年齢的にそろそろ糸谷さんがやってもいいかなと思っていました。実績的にも彼が西遊棋(関西の若手棋士たちによって立ち上げられたユニット)で動いていたのを見ていたので、いいんじゃないかなと思いました。
人選などは皆さんで相談されたりしたのでしょうか?
自分の中でも糸谷さんや山崎(隆之八段)さんあたりかなと思っていました。あとは一緒に運営されていく畠山さんのご判断もありますので。結果的に良い人選になったと思っています。
新しい棋士会に期待することなどがあったら教えてください。
先日、任期の最後となるイベントを岡山県の矢掛町でやってきて、そのときに壇上でもお話させていたんですが、棋士会というのは2011年の東日本大震災のとき、棋士が復興のために何かやりたい、やろうというところから自然発生的に誕生しました。チャリティーイベントというか、そういう形で貢献していきたいと。
本当はそういう災害が起こらないことがいちばんなんですけど、西日本豪雨など自然災害が起こったときに、実際にその場所に行ってチャリティーイベントを開催して、地元の方々に楽しんでいただいて、将棋を通じて少しでも社会貢献ができるようにしていってほしい、ということを伝えました。
後輩たちもそれを聞いていたと思うので、今後につなげていってくれるんじゃないかなと期待しております。
久保先生とは王将時代を含めて長くお付き合いいただいていますが、その中で、王将戦開催地についてもさまざまご紹介いただいた実績があります。改めて、本当にありがとうございます。地元の方とのつながりや、どういった経緯があって棋戦開催地の誘致までお話を運んでくださるのでしょうか?
こちらからというよりは、各地の方から声をかけていただけるんです。たとえば、王将戦の尼崎(兵庫県)開催はゴルフ場がきっかけでした(笑)。一緒にゴルフをラウンドさせていただいて、お茶をしているときに「じつは将棋のタイトル戦をやってみたいんだけど、いままではあいだに入ってくれる人を見つけられなくて開催できなかった」という話を聞いて、「とりあえず電話してみましょうか」という軽い感じで電話したというのが始まりです。
矢掛町のイベントも地元の方とのご縁で、町長さんをご紹介いただいたというところなんですけど、自分はあいだをつないでいるだけなのでとくに何もしていいんです(笑)。
開催地の誘致やご紹介までしてくださる先生はなかなかいらっしゃいません。将棋の世界だけでなく、さまざまな業界の方とのお付き合いがあるのですね。
自分はいろいろな業界の方ともお付き合いしたりする方なので、そういう意味ではつながりを持ちやすいのかなと思いますね。他の世界の人とは仲良くなれるんですけどね、棋士とは…(笑)。お互いが勝負の世界にいるのもあるんですけど、ある一定の距離ができてしまうのはしょうがないかなと思ってるんですよね。棋士とご飯に行っても、そのときはすごく仲良くなるんですけど、次に会うときは、また一定の距離に戻ります(笑)。お互い嫌いでもなんでもないと思うんですけどね。
久保先生からよくお名前の挙がる菅井(竜也七段)先生とは家族のような仲の良さだと思うのですが…。
基本は来るものは拒まずのタイプなので、自分のところに来る人には「おぉ、そうか」と思うだけです(笑)。彼の場合は気を遣うタイプじゃないんですけどね(笑)。
研究会やVSの新規メンバー加入についてはいかがでしょうか? 渡辺(明王将)先生に同じお話を伺ったところ、なかなか直接「今度お願いします!」というお願いがあるものでもない、とのことでした。
めったにそういう方はいないですよ。やっぱり僕らの世界は、下から頼みごとを言えるものじゃないんですよ。ただ、研究をしているときに近くにいて「いつも近くにいるな、じゃあやろうか」みたいに声をかけてもらうのを待つという感じです。私も若いころ、自分から声をかけたことはないですよ。近くにいて無言でアピールする(笑)。
奨励会で村山(聖九段)先生に教わったときも、連盟の棋士室に行けば必ずいるんです。だけど自分から「教えてください」とは言えないので、隣の席で声がかかるのを待つわけですよ。棋譜とか並べてみたりとかして。「じゃあ君ちょっと暇そうだから将棋を指そうか」と声をかけてもらわないと将棋を指せないんです。
本当は自由に先輩後輩で将棋を指せたほうが良いと思うんですよね。だって野球場に行ってキャッチボールができないみたいなものだから(笑)。将棋界は先輩がだいたい「この子と将棋を指そうかな」と思って声をかけるのがほとんどです。
もし若手や奨励会員から「久保先生に教わりたいんです!」とお願いされた場合はどうされますか?
基本的にはやりますね。2年前くらい前になりますけど、棋士室に用事があって帰り際に奨励会員の子から「1局お願いします!」と声をかけられたことがあります。やってみたら「そこそこ強いな」と思って。幹事の北浜(健介八段)先生に「この子強いけど有段者ですか?」と聞いたら「いや4級です」と言われて(笑)。「え?4級がオレに声をかけてきたんか!」と(笑)。
そこから気になってその子の成績を追ってしまうんですが、期待しているのに全然上がってないんです。メンタルが強いだけではなかなか難しいのかと…。でも僕はそういう子のほうが成績を追ってしまうくらい大好きなんですけどね。
王将リーグについてもお話を伺いたいと思います。今期の最注目はなんといっても藤井聡太七段です。久保先生は過去に対局した経験が多いこともあり、いろいろな棋士から藤井攻略法などを聞かれると思いますが、ひとつ挙げるとしたらどのあたりなのでしょうか?
いちばんは、藤井聡太七段との対局を意識しないことじゃないですか? 相手が誰だからこうしようとか、自分はあんまり考えないタイプなんですよね。たとえば羽生(善治九段)さんだろうが、四段上がりたての若手だろうが、結局は自分の力を出し切れるかどうかが大事だと思うんです。
出しきって負けるぶんには仕方がないんです。それはもう。たとえば100%持ってる実力を、80%しか出せなくて負けるとやっぱり悔いが残るじゃないですか。自分はメンタルをしっかり保っていつも100%出しきろうとする戦い方をしているので、この人だからこう、というのは、最近はほとんどないんです。
藤井先生との対局だとメディアの注目度も高いですし、どうしても力が入ってしまう気がします…。
20代の中盤くらいは、タイトル戦に挑戦して、相手が羽生さんだと、やっぱり注目もされるし「羽生さんに勝ちたい。羽生さんに勝ちたい」と、意識してやっていましたけど、それで自分は結果を残せなかったんです。
相手がどうこうではなく、自分が持っている力を100%出しても、勝負の世界は100%勝てるわけではないので、そこはもう割りきろうという戦い方を自分はしています。
そこがA級棋士との違いという部分なのでしょうか?
単に人より痛い目に遭っているということだと思います(笑)。
メディアの数も気にならないものなのでしょうか?
あんまり気にならないですね。鈍感力でしょうか(笑)。
藤井先生自体に足りないものが、まだあるというわけではないのでしょうか?
あの年であの実力だったら、足りないものはないに等しいと思いますけどね。
これからの伸びしろもありますから。王将リーグで上のクラスと当たるというのは、自分を大きく飛躍させるものだと思います。自分も若いころ、王将リーグに入ったときはすごく勉強になりました。
今回の王将リーグのメンバーを見て、感想はいかがでしょうか?
毎年スゴいメンバーなので、あまり何も感じなくなってきました(笑)。もう麻痺してきていますね。考えてもしょうがないというか…。基本的に自分の場合は“相手”と戦っていないので、誰でも一緒なんです。すべて自分との戦いです。
対策という面ではいかがでしょうか?
もちろん技術的なものはやります。でも精神的なものは何もしないですね。
王将リーグはひさしぶりの戦いとなりますね。
けっこう経験させてもらっているので、戦い方はもう体に染み込んでいるかなと思います。
久保先生と言えば「捌きのアーティスト」の異名通り終盤の切れが魅力ですが、プラス要素として「粘り」というところも挙げられると思います。「粘り」という部分を引き出すきっかけというのは何かあったのでしょうか?
若いころしばらく東京にいまして、家が近かったということもあって深浦(康市九段)さんと研究会やVSをやっていたんです。そのときに、自分の中の感覚だと、それ以前はだいたい研究会で将棋を指していると、どちらかが大差になったら、研究会だからってそれ以上やっても意味がないのかなと思って投げる(投了する)のも早かったんですね。
深浦さんとの研究会では、私が飛車得くらいするときもあるんですけど、「こんな対局やっていて意味あるんかな?」と思っていたんです。でもそういうことを思うと勝負ってやっぱり勝てないんですね。
その後、逆転負けして「ああ、こういう考え方がダメなんだな。やっぱり研究会のときから粘らないといけないんだな」というのを、21、2歳のときに気づいて、それ以来、研究会でも最後まで粘るというのを意識するようになりましたね。
そのようなご自身での経験を、後輩に指導するようなこともあるのでしょうか?
言いはしませんけど、行動で示していこうとはしていますね。可能性がある限りは頑張ろうと。1回楽なほうに逃げてしまうと、もうなかなか戻れないと思うんですよ。「ああしょうがないな」と。どんどん投げるのが早くなりそうなのが怖くて、最後まで頑張っているだけなんですけどね。でも私より深浦さんのほうがすごい粘りですけどね(笑)。
さらに久保先生の代名詞と言えば「振り飛車」が挙げられます。もはやレベルとしては振り飛車への「愛」ですよね?
そうですね。もうここまで来ると(笑)。
基本的には人と違うことをやりたい、というのが根本にあるので。将棋を始めたのも人と違うことをやりたいというのがあって。うちの父親はサラリーマンだったんですけど、毎日同じ時間に出て、毎日同じ時間に帰ってきて、そんな生活は俺には無理だなと思ったんです。いまでこそ父親はスゴいことしていたんだなと、尊敬するんですけどね。そのころから何か違うことをしたいな、と思っていたというのがありました。
広瀬(章人竜王)先生や永瀬(拓矢叡王)先生のように、勝つために居飛車党に変更する棋士もいらっしゃいます。その中で久保先生は一貫して振り飛車党を貫いていらっしゃいます。
結局は中盤、終盤の勝負になるので、自分は、将棋は飛車を振った時点で決まるとは思っていないので。振り飛車はよくソフトにかけると点数が下がるといわれますけど、あれも本当に低いのかどうか、正しいかどうかはまだ確定していないと思ってるんです。むしろソフトのほうが間違っていると思っているくらいです。それを結果で証明していきたいですね。ソフトにあらがう棋士というのが、ひとりやふたりくらいいても良いと思っていて。みんながみんな同じ方向でやっても面白くないと思うので。
「人と違う」というのは勝利以上に大事な部分なのでしょうか? ご自身の美学みたいなイメージなのでしょうか?
人と違うほうが心地よかったりするので。学校の生活なんて、みんな一緒じゃないですか。楽しかったけど、何か物足りないなと思っていましたね。
自分の軸のようなところはずっと変わらないかもしれないですね。将棋だけではなくて。人と違うことをやっていくという好奇心のようなものがあるんだと思います。
結果をある程度、残しているから言える部分もあるかもしれませんね。でないとただ単に強がっているだけになってしまうので(笑)。ただプロでは少数派ですけど、アマチュアの中では振り飛車は多数派だったりもするので、そういう方たちに将棋を観て楽しんでもらうというのは絶対に必要だと思うんです。「角換わり」とか「矢倉」ばかりになっても、観ている人はつまらないと思うんです。
今回の王将リーグでは、振り飛車党は久保先生おひとりですね。間違いなく注目が集まると思います。
王将リーグのリストに振り飛車党がいるのはひさしぶりかもしれないですね。
事前アンケートでは、「才能」という言葉に関する解釈を回答していただきました。「史上最速や史上最年少とか史上~~の方に感じる」という回答をいただきました。
人よりも先に達成したとか、人よりもなんでも良いんですけど、史上最年少とか最速とか、そういうところに立つ人に才能を感じますね。その人しかいられない、特別な場所なわけですから。
そのお答えを聞くと、久保先生の定義がいちばん感覚としてわかりやすい気がします。
中学生棋士というのは、自分もなろうと思ったけど、なれなかった場所なので、自分が立てなかった場所に立っている人はやっぱりスゴいなと思います。わかりやすいかもしれないですね。
その枠組みでいうと別に年齢が若いというだけではないのでしょうか?
たとえば、いまはいないですが、17歳で奨励会に入って2年でプロになったとしたら19歳。それはスゴいなと思うので、年齢だけとも言えないですね。
やはり中学生棋士というのは相当大変なことなのでしょうか? 13、4歳くらいで初段だと早いほうだとも言われていますね。
みんなが中学生棋士というのを目指すわけですけど、普通は無理なんです。いまは三段リーグがありますけど、1期逃すと半年逃すことになるので。そうなるとかなり難しいんですけど、そこに立った人はやはりスゴいなと思いますね。基本的にそのころが将棋の実力がいちばん伸びやすいと思いますけどね。中学生棋士はもっと前段からスゴいんでしょうね。
藤井先生のプロ入り後、最近プロ入りする年齢が少し上がってきているようですが、何が要因だと思われますか?
またそういう時期なんでしょうかね。揺り戻し的な感じ(笑)。自分の世代も、自分の下は渡辺さんまでほとんどそういう状況だったので。普通は空くんですよね。
久保先生が最年少棋士だった時代もあったというデータを拝見しました。
17歳のときですかね。1年くらいあると思いますね。
久保先生も三段リーグをわずか2期で抜けられました。それも十分スゴいことだと思うんです。
1期目は次点で負けているので、失意の中2期目を戦ったのを覚えています(笑)。昔は次点を1回取ろうが100回取ろうが何の意味もなかったので。当時の奨励会では、次点を取った次の期に四段に上がった人がいないというジンクスがあったんです。だから上がれないんじゃないかと言われていたと思うんですけど、そこで上がれたのでよかったです。
ジンクスを破って史上初の出来事!ということで、久保先生が求める「才能」にカウントされますね(笑)。
たしかに(笑)。人と違うことをしたかったので、ジンクスを破れたことは誇れるかもしれないですね。ただ自分と一緒にプロ入りした川上猛(七段)さんは15勝3敗の1期で駆け抜けていきました(笑)。
努力と言うと、ひとつ「勉強量」というところが挙げられると思いますが、久保先生はどうお考えですか?
プロはあんまりそういうのを表に出さないので…。誰が何時間くらい勉強していてという話を棋士同士ですることもないですし、基本的に勉強をするのは当たり前だと思っていて、将棋の勉強をやっていることが楽しいので、あまり努力だと思わないんですよね。嫌なことじゃなくて、楽しいことをやってるだけなので。うーん。趣味みたいなもんですかね(笑)。
永瀬先生は「努力=息をすること」ということを過去におっしゃっていましたが、近い感覚なのでしょうか?
本当に、そういうものですね。
どうしても「努力」という言葉には、つらくて厳しいもの、というイメージがつきまといます。
やっぱり嫌なこととか苦手なことをやっていたら、そういう「努力」になっちゃうじゃないですか。僕は学校の勉強が嫌いだったので、努力しながらやっていたわけですけど(笑)。でもそういう気持ちでやっても身につかないじゃないですか。努力をしているようでは、強くはなれないかもしれないですね。嫌々やるような感じになってしまうので。
渡辺先生と広瀬先生は「じつは将棋の勉強が好きではない」ということをおっしゃっていました。すぐに他が気になって野球やサッカーを観たりしてしまうと。
そうは言っても、ですよ(笑)。まあ人間ですからね、当然ありますけど。自分は好きでやっているので、苦になったことはないですね。何時間でもできちゃうけど、でもそうは言いたくないんですよ。私は何時間も勉強をやってますとか恥ずかしいじゃないですか(笑)。
久保先生のアンケートには、努力型の項目で菅井七段が挙がりました。「棋士になる前は年間1万の局将棋を指してたのを見ている」とのことでした。
彼は明らかにそれくらいやっていましたから。自分の知っている限り、菅井くん以上に努力している人は見たことがないですね。
1万局がどのくらいのものなのか想像すらつきません。ちなみに、通常はどのくらいの量なのでしょうか?
僕らのころは、連盟に行って人としか将棋を指していないから、1000局もやってないかもしれないですね。
菅井さんが奨励会員だったころは、ネットで将棋を指せるようになっていたので。彼はずっとネットを使って「将棋倶楽部24」で指していましたね。自分は菅井くんのハンドルネームを知っていたから、もう同じ名前がずーっとあったのを知っているんです(笑)。やっているのは確定しているわけですよね。毎日休みなくやっているのがわかりましたね。
逆に言えば1万局やれば将棋は強くなるものなのでしょうか?
菅井さんいわく、努力さえすれば三段までは誰でも行けると言っていました。名言だなと。彼が言うならそうだなと思いました。あの人より努力している人は見たことがない。やっているのは見えているし、一緒に将棋を指していても研究しているのがわかるので。
居飛車党よりも振り飛車党のほうが、研究量が厚く深い感じがあります。
捨てられるものがあるのでね。矢倉とか研究しなくて良いので。
ご自身についての分析については「努力型」に分類されてました。
師匠に、「君には将棋の才能がなかった」と言われていたんです。でも努力する才能はあったとことあるごとに言われていました。だから将棋センターに行っても、朝行って1日2、30局指して帰るんですけど、嫌な顔ひとつせずにずっとやっていたというのは聞きましたね。自分はあまり覚えていないんです。でも朝から晩までそんなふうにずっとやっている人がいなかったんでしょうね。それが子どもならなおさら目立ったんでしょう。
久保先生はどちらかというと才能型に分類されるのかなと思っていました。
でも師匠はそう言ってましたから、たぶん努力型なんじゃないですかね(笑)。
久保先生はたくさんの天然エピソードをお持ちで、そういった点も天才肌を感じるところです。お財布や鍵を忘れたり、電車の方向や道を間違えたり…(笑)。
あー、そんなのしょっちゅうです。でも今日はここ(東京・新宿にあるLINE本社)には一発で来られました。電話をすることもなく(笑)。昔から忘れ物とかは多いですね。(元プロ野球選手の)長嶋(茂雄)さんは球場に自分の子どもを置いて帰ったらしいですね、あの天才とはレベルが違いますけど(笑)。しょっちゅうですね。誰のDNAなんだろう(笑)。
最近は、久保先生のお子さんに指導するようになったとのことですね。ご自身のお子さんに指導するのと、他のお子さんに指導する場合と違いなど感じられますか?
イベントとかに来ている子どもたちに指導将棋で教えるのと、自分の子どもに教えるのとではだいぶ違っていて、自分の子どもだと「なんでこれがわからないんだ」と思ってしまうんですよね(笑)。よそ様の子どもだとそういう気持ちにはならないじゃないですか。懇切丁寧に教えられるのに。
上の娘は4歳のときに将棋を教え始めたんですけど、そういうのが嫌になって将棋を1度やめてしまったんですよね(笑)。それで5年生くらいまでやらなくなったので、下の娘のときは教えるのはやめようと思って一切教えていないです。ルールも教えていない。外注です(笑)。いまはもう強くなってきて普通に指せるようになったので、1回ぐらい負かしたところで将棋をやめてしまうということはないですね。いまはもう本気で潰しにいきます(笑)。
ちなみにその場合は「父・久保利明」、「棋士・久保利明」のどちらの立場で教えるのでしょうか?
あんまり考えたことなかったですけど。強くなってほしいという思いで本気でやって、自分の技術をすべてつぎ込んでいます。当然自分が勝つんですけど、強くなってほしいと思ってやっています。
上の娘は研修会に入ってプロを目指しているので、そこまできたら技術をすべて教えてあげたほうがためになると思うので。ただ、ほとんど指すことはないですよ。月に1回もやらない。大会の少し前に「少し教えてあげるよ」くらいしかないです。見守っているのもありますし、自分の勉強もしないといけないので(笑)。
糸谷先生は、指導のマニュアルを作って、棋士全体の指導のベースを上げていきたいということをおっしゃっていました。
それは哲学者の意見ですね(笑)。でも将棋には「こうやれば強くなる」みたいなのが、なかなかないんですよね。たとえばある人には詰将棋が合ったかもしれないし、ある人には棋譜並べが合ったかもしれないけど、ある人には指すのがいちばん合っているということもあります。どれをやったから強くなった、というのがわからないから難しいんですよね。これをやったから強くなったというのがないので。でも指導のベースがあったほうが教えやすいというのはあると思います。
久保先生が得意な趣味のゴルフではレッスンプロがありますよね?
ゴルフも一応、あるにはあるんですが、やはり人によって教え方が全然違うんですよね。十人十色です。バーンと振れという人もいれば、そんなに力なんか入れたらダメだよ、という人によって真逆のアドバイスをすることもあります。ゴルフもマニュアルがあるようでないんだと思います。
腕の上げ方ひとつとってみても全然違います(笑)。人によって体格や性格、何もかも違うから、なにが正しい指導なのかわからないですよね。ある人はそれでうまくいったかもしれないけど、2メートルを超える大きな人がその打ち方をしても良いとは限らないので。だからマニュアルはあったほうが良いに越したことはないけど、作るのも大変ですよね。
最後に、改めて最後に王将リーグへの意気込みをお願いいたします。
振り飛車党は他にいないので、振り飛車の将棋を観ていただきたいのと、リーグ戦をやる以上、挑戦を目指してやっていきたいと思います。
今回、参考にさせていただいたインタビューや書籍などのリストになります。どれも素晴らしい内容ばかりです。ぜひ合わせてご覧ください。
情報源:【インタビュー】【久保利明九段】ソフトにあらがう棋士がいても良い。振り飛車への深い「愛情」 – ライブドアニュース
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— ライブドアニュース (@livedoornews) September 26, 2019
ほぉ・・・