「負けて悔しい」ではなく、自然に将棋をやっている

【インタビュー】【豊島将之名人】「負けて悔しい」ではなく、自然に将棋をやっている – ライブドアニュース

ふむ・・・


2019年9月25日 20時0分
相対すものの目を、いや、もっと奥の脳内までも、じっと見つめる。
質問の真意を探っているのだろう。こちらが一瞬たりとも気を抜けば、潮流に飲み込まれそうな錯覚に陥る。

透明感と、圧倒的な存在感を併せ持つ棋士・豊島将之、29歳。
将棋指しならば誰もが目指す至高のタイトル名人位、さらには王位の二冠保持者だ。

飛ぶ鳥を落とす豊島を持ってしても、自身初の防衛戦は失敗、棋聖位を失った。ふたつ目の防衛戦・王位戦も、大方の予想とは裏腹にフルセットまでもつれ込んでいる。
しかし、その強いまなざしには不安の色は一片も感じられない。
期待と希望、探求心―。
今このときも将棋を指すことへの幸福感に満ちあふれている。

豊島を突き動かす、将棋への深い情熱の源は何だろう。
ソフト研究に膨大な時間をつぎ込む“研鑽の鬼”は、自らを「才能派」「努力派」どちらと捉えているのだろう。

シリーズ第4弾では、名人・豊島将之の視線の先に焦点を当ててみたい。

撮影/吉松伸太郎 取材・文/伊藤靖子(スポニチ)

今期の成績を振り返ってみて100点満点だとすると何点をつけますか? 名人戦(奪取)、棋聖戦(防衛失敗)、王位戦(3勝3敗)、竜王戦(挑戦)と常にタイトル戦に顔を出されています。

100点満点ですか。えー難しいですね(笑)。何点だろう……。80点くらいですかね。もうちょっと高いかもしれないです。

具体的に、どのようなポイントで80点をつけられたのでしょうか?

やっぱり名人を獲れたのがいちばん大きいです。さらにタイトル戦が3つ絶え間なく続いている中で、他の棋戦でもどれだけ勝てるかが大事だと思っていたんです。そこでしっかりと結果が出せていたのも大きいです。

竜王戦は挑戦までたどり着きましたし、王座戦も挑決まで行けました。一方で棋聖戦は負けてしまいましたし、王位戦も最終局でどうなるかわからないですけど。

振り返って良くできたという点と、まだまだここは修正していかなければいけないという点、それぞれを教えてください。

名人戦のころはすごく調子が良くて、指していて自分でもすごく上手くいっている感じがしていました。でもその後、タイトル戦がずっと続いていたこともあって、なかなか調子が上がってこなかったんです。それも実力ですけど、どうしても将棋の内容が落ちてきてしまっているのがいちばんの問題点ですね。

これまでの経験上、対局がどんどん増えてくると、良い状態をキープするのがなかなか難しいんです。その中で、今期はこれまでより、わりと上手くやれているほうかなという感じもしています。

やはり大きなハイライトは名人の奪取かと思います。棋士なら誰もが憧れるタイトルです。名人と呼ばれることには慣れましたか?

そうですね。免状の署名は相当な数を書いていて、署名をするたびに「名人」と書くので、実感は湧いてきます。

渡辺(明王将)先生や広瀬(章人竜王)先生は「最近の豊島さんは貫禄みたいなものが出てきた。本人も意識してそういう態度をとっているのでは?」と話していらっしゃいましたが、いかがでしょうか?

いやー、別に意識をしてやっていることはないのですが(笑)。でも、なるべくしっかりしないといけないなとは思って、心がけていますね。なかなかすぐに変われるものでもないので、やれるところからやっていこうという気持ちです。

挑戦者側と、受けて立つ側をそれぞれ経験されて、何か違いなどは感じられましたか?

そんなに変わらないです。おそらく対局数がもっと少ない状態で、防衛戦を迎えていたら全然違ったと思うんですけど、対局数がずっと多いまま防衛戦に入ったこともあると思います。

挑戦する側だとリーグとかトーナメントを勝ち上がっていくと思うんですけど、それと同じような感覚で受けて立つ側に入れたので、あまり変わらなかったです。

舞台上でスピーチをする機会もここ最近グッと増えたと思います。もともと緊張しやすい、または全然平気、などどちらのタイプでしょうか?

苦手ですし、いまだにかなり緊張しています。

棋聖戦第4局で敗勢が決まって形を作っていたとき、ポーカーフェイスな豊島先生には珍しく悔しそうな表情が滲み出ていました。どういう心境だったのでしょうか? やはり棋聖位というのは、ご自身にとって初めてのタイトルということもあり、愛着がありましたか?

もちろん愛着はありました。負けてしまうと第5局のうち最後の1局を余して終わってしまうので「できれば避けたい。最終局まで行きたい」と思って指していたんです。自分としては、最後までけっこうチャンスがありそうだと思って指していました。そのぶん、負けが決定的になったときは悔しかったんだと思います。

渡辺先生についてお伺いします。いまや豊島名人、渡辺三冠の2強時代だと言われています。糸谷(哲郎八段)先生もそのふたりがリードしていると話されていました。渡辺先生の強さはどのあたりだとお考えでしょうか?

もともと将棋の力自体がすべてにおいて強いですし、総合的にすべてのところで高いレベルにあります。そのうえすごく勝負にこだわって、いろんなことを合理的にやってこられていますね。戦型の選択など、こちらの状況を見て臨機応変に変えてこられたりしますし、とても戦略的だと思います。

それに加えて対局もスピーディーに進んでいくので、まったく気が抜けないです。決断が早いですし、序盤がどんどん進んでいく。渡辺先生は、研究がスゴいですし、少しでもこちらの形勢が悪くなったらそのまま終わってしまうところもあります。有利になってから勝ちに結び付けるのがすごく上手いですよね。

豊島先生も戦略性をもって勝負に挑むのではないのでしょうか?

棋士というのは、自分の中のこだわりやスタイルを持っていると思うんですよね。相手がこうするときはこうするとか。持ち時間があるとかないとかではなくて、局面だけで最善を追及していく人もけっこういると思うんです。

渡辺先生はすべてが合理的というか、時間の使い方や決断が早いんですよね。あんまり考えすぎない。自分の場合は考え出すと止まらなくなってしまうんです。冷静に考えると、ありえないような変化を読んでしまったりするときがあります。渡辺先生はそういうのがあまりなくて、しっかり考えるべきところだけ時間を使って考えて、すぐ決断するという感じですよね。

今期は木村(一基九段)先生との対局数の多さも際立っていました。10番勝負もいよいよ大詰めですね。同じ方と公式戦で短期間に10回も対局するというのはなかなか経験されたことがないかと思われます。ご本人たちも飽きたりしないのでしょうか。

10局は初めてですね。でも飽きることはないです(笑)。木村先生の棋風は独特ですしね。あとはやっぱり、年齢的に40代半ばでも衰えず最前線に居続けるというのは、自分もこれからどうやって長く活躍していくかというのを考えさせられることもありまして、すごく勉強になっています。

同じ相手だと戦型の選択も難しくなってくるのではないでしょうか?

たしかに、自分の中の「ストック」がなくなってくるので、難しいですよね。木村先生との対局だけでなくて、名人戦や棋聖戦でもずっと居飛車党の方と指し続けてきていて、「自分の中でやってみたい」「こうなればペースをつかめるのではないか」というのをタイトル戦でどんどん出していくので、ストックが少しずつなくなっていくという難しさはあります。

戦型は王位戦用、竜王戦用など分けて考えるものなのでしょうか? それとも、目の前の1局をそれぞれ全力でぶつけていくイメージでしょうか。

基本的には目の前のことだけを考えていて、「この作戦は早指しだったら上手くいきそうだけど、長い時間だったらちょっとうまく対応されそうだな」とか。逆に「早指しで指すと自分のほうが指しにくい展開になりそうだけど、長い時間で指せればそれなりに戦えそうだな」とか。その持ち時間にあった戦型を使い分けたりします。でも基本的には、自分がいちばん自信があるものをぶつけていくという感じですね。

木村先生は将棋の強さはもちろんのこと、人間的にも素晴らしいと思います。王位戦で記録係が誤って記録用紙を落としたときに気遣っている姿を拝見しましたし、豊島先生に西日が差していたとき、記録係にカーテンを閉めさせたシーンなどはとくに印象的でした。それだけ同じ時間を共にしたことで、将棋以外の部分でも吸収する部分はありましたか?

たしかに気遣いが素晴らしいですよね。自分はなかなかタイトルを獲れなかったころは、木村先生と違って気持ちに余裕がなくなっていましたけど、そういうところをまったく見せないのは、本当にスゴいことだなと思います。

王位戦の第4局、解説者の皆さんが「自分が豊島さんだったらもっと早く投了する」というを口にされていました。そんな中、最後まで勝利の可能性を捨てない名人の姿はとても印象的でした。

諦めてはいたんです。途中までは諦めずにずっと指していていたんですけど、途中から明らかに点数が足らなくなっていたのは気づいていました。でも気持ちの整理がなかなかつかなかったので、ダラダラと指してしまって……。もう少し早く投げるべきだったと思います。

その対局に限らず最後の最後まで諦めないという姿勢を感じます。それは小さいころから変わりませんか?

昔から投げるのは遅いほうだと思います。可能性がまったくなくなるまでは、諦めずに勝つ手段を探しています。その手段を探している中で可能性がなくなっても、気持ちの整理がつかずにダラダラ指して投了するという感じでやってきたので、いまも残ってしまっているかもしれません。本当は可能性がなくなったら、早く投げたほうが良いとは思うんですけど…。

棋聖戦の第4局のときもはっきりダメだなと思ってから、やっぱり何手か指してしまいました。持ち時間が残っていれば、時間を使って気持ちの整理をするんですけど、1分将棋になってくると、そのまま指し続けてしまうんですよね。でももっと早く投げないといけないと思っているんですけど、なかなかうまくできないですね。

豊島先生はどういった将棋を理想とされていますでしょうか? 序盤でリードを奪い、徐々にリードを広げ、そのまま押し切るというのが豊島将棋の代名詞ですが。

そうですね。リードした後、守りに入るのではなく積極的に指していって、ある程度自玉が危険になっても攻めを緩めない、強い手を指していって最終的に勝ちまでつなげていく、という将棋が理想です。

それはタイトル獲得、名人獲得後もお変わりないものなのでしょうか。さらにその気持ちが強くなった、というところもありますか?

気持ち的には変わってないんですけど、最近は序盤で上手くいかないこともありますね。ストックが少なくなってきたこともありますし、相手が強かったり、ということもあるんですけど、理想的な展開にはならなかったりすることも多いです。

でも序盤が上手くいかなくても、粘り強く、理想の形以外でもしっかりと結果を出していくというのは、名人として求められていると思っています。

いまは少し不利な状況になってから、中盤でごちゃごちゃするような展開が多いです。できるものなら、序盤でリードして逃げ切るというか、リードを少しずつ広げていくという感じにしていきたいですけどね。

王位戦最終局は都市センターホテル(東京)です。対局中に警報が鳴ったり、飲み物がこぼれるハプニングなどが続いていますが、豊島先生はとくに気にされていませんか?

自分としては2回の最終局で良い結果を出せているところなので、逆に縁起が良いというか…(笑)。そんなに悪いイメージはないです。普段からそんなにハプニングは気にしないタイプですしね。

王将リーグについても伺わせてください。毎回、ハイレベルなメンバーが揃いますが、藤井聡太七段の参戦でより注目度も上がっています。

今回は藤井さんとA級、タイトルホルダーですね。毎年キツいリーグなので例年通りというところですが、あとは藤井さんがどのくらい勝つか、どういう内容の将棋を指すか注目ですかね。

今期は例年とは異なり竜王戦に挑戦しつつリーグを戦うことになります。初めての経験なのでどうなるか……日程も詰まってくると思うので、対応できるかがポイントになりますよね。

ハードスケジュールへの準備は問題なさそうですか。

棋譜を見たりなど竜王戦の準備は少しずつ始めています。王将リーグに関しては、1戦ずつ次の対局、次の対局と準備をしていくことになります。第1戦は久保(利明九段)先生との対局なので、後手番で振り飛車になると想定して、少しずつ棋譜を見たりしています。

過密スケジュールによってストックを作る時間が減ると、相手の研究はできるけど自分の研究ができないというジレンマとも戦うことになるのですね。

間隔が短いと、次の対局の準備は1日、2日で対局相手の棋譜を見て「この局面になったらこういう感じにしよう」というのを考えることはできるんです。でももうちょっと長期的に見て、いろんな戦型の感覚を1週間とか、1ヶ月かけて磨いていくということは、なかなかできませんよね。

ストックというのは、対局中に思いつくものなのでしょうか? それとも盤から離れて作ったりストックしたりするものなのでしょうか?

対局中に「こうしたらどうなるんだろう」と思いつくところがあって、それをまた家に持って帰って考えてみて、新しいものができることもあります。

やっぱり対局が多くなると、どんどんストックを出していくことが多くて。もちろん対局中に出てくることもあるんですけどね。いまは上手く波に乗れていない感じですかね。序盤で飛ばしすぎているので…。溜まっていかないところがあるのかもしれないです。

対局の間隔が空きすぎると勝負勘が落ちてしまう、というところも難しいというのは他の先生方から伺いました。

間隔が短いと勝負勘は、どんどん良くなっていく感じはします。でも疲れもありますし、研究の時間が短くなってしまうので、メリット、デメリットはあります。

週1局くらいのペースで対局が続けば、時間的にもかなり余裕がありますし、良いような気がしますけど、どうしても間隔が詰まってしまったり空いたりとか、ばらつきが出てしまうんですよね。

ハードスケジュールといえば、豊島先生の移動距離は凄まじいものがありますね。王位戦では北海道まで飛行機ではなく、電車で行ったと伺いました。移動自体はあまり苦にならないタイプですか?

今年は新幹線で札幌行きに挑戦してみました(笑)。飛行機が苦手だったので新幹線を試してみたんですけど、けっこうよかったです。東京から函館までは4時間なんですけど、思いのほか、すぐに着いたという感覚でした。さらに函館から札幌までは3時間くらいで、同じ道内でそんなにかかるのかと思ったんですけど、車窓の外の自然と海の景色が流れていくのが見られてよかったです。

移動時間は、将棋のことを考えているか、ぼーっとしてるか、寝ているか(笑)。

結局、将棋しかしていないんですね(笑)。札幌での王位戦のあとも東京で竜王戦の対局があり、かなりハードな日程でしたね。

東京での竜王戦は王位戦から中1日だったので、さすがにキツイかなと思ったんですけど、意外と大丈夫で(笑)。もっとボロボロになるかと思ってたわりに、良い内容の将棋が指せたので、自分でも意外でした。良い内容の将棋を指せると、疲労も軽減されるんですよね。

才能の定義を教えてください。糸谷先生は才能があるというのは「自分にはさせない手を指す人」だと述べていました。渡辺先生は「若いうちに発揮できる能力、中学生棋士になる人たち」という話をされていました。

たしかにその両方かもしれないです。自分が回答した中だと、藤井さんは若くて強い。あの年齢であれだけの成績というのは本当にスゴいと思いますし、糸谷さんや山崎(隆之八段)さんは普通の人と違う異才というイメージですね。

今回挙げられた棋士を順番に見ていきましょう。まずは山崎先生から。山崎先生の名前は多くの棋士から挙がりました。糸谷先生は当然として、東の広瀬先生も。どのあたりに才能を感じますか?

なんでその発想になるのかなという(笑)。全然わからないんですよね。

糸谷先生の分析では「面白い、面白くないというところで指しているのでは」とお話されていました。

そんなに楽しそうに指しているようには見えないです(笑)。山崎先生が楽しそうに指されているように見えます? でも本当にスゴい才能だなと思っています。

山崎さんとは公式戦で対局しただけではなく、奨励会のころからずっと指してもらっていたのですが、練習でもスゴい手が出てきていました。そのときは「それが正しいのかな?」と思っていたんですけど、後々考えるとやっぱり相当変わった感覚だったんだろうなと思ったりしていました(笑)。

奨励会でその違和感に気づく豊島少年もスゴいです(笑)。自分にない才能を持っている方に対して、嫉妬することはありますか? それとも自分は自分、という感じなのでしょうか?

そういう才能が欲しいなと思ったときもありましたけど、いまは別に思いません。あったらなおのこと良いんでしょうけど、なくても戦えないこともないですからね。

続いて糸谷先生。糸谷先生ご自身は、「自分は山崎さんというクリエイターの創造物をアレンジしているだけ。本当にスゴいのはクリエイターである山崎さんだ」と話されていました。

糸谷さんも独特の感覚がありますし、天才というふうになるのかはわからないですけど、頭の回転がすごく速いですよね。その手を準備して出しているというより、即興でやっている感じがかなり強いです。

そういうタイプとの対局はやりやすいですか? やりにくいですか?

どうなんでしょう。別にやりやすいということも、やりにくいということもないです。

最後に藤井先生。いま挙がったおふたりとはまた異なる才能の持ち主だなという感じがしています。改めてどのあたりに才能を感じますか?

やっぱりあの年齢であれだけの内容の将棋が指せるというところですよね。すごく変わった手を指すというわけではないんですけど、状況に合わせて最適化する能力がすごく高いと思います。羽生(善治九段)先生もそういうタイプだと思いますが、いろんな環境に適応していく能力がすごく高いんだろうと思います。

そんな藤井先生に対して、豊島先生は過去3戦全勝。昨年1局と今年2局ですが、成長などは感じられますか?

どこかひとつというより、全体的に少しずつ強くなっている感じがあります。ご存知の通り、終盤力は元からあるので伸びているかわからないんですけど、序中盤、とくに中盤のところの複雑な局面の部分ですかね。

以前から得意な戦型に関しては、かなり序中盤強かったと思うんですけど、そうでない戦型でも上手く指せるようになってきているという感じです。でも自分も今年は2局しか対局していないので、いろんなことがわかるわけではないです(笑)。

続いて努力型に移りたいと思います。永瀬(拓矢叡王)先生、菅井(竜也七段)先生はほとんどの棋士が挙げていました。

菅井さんは昔から良く知っていますし、相当努力されている…。でもご本人は努力しているという感じでもないんじゃないですかね。すごく将棋が好きで、相当な量をやっているんだろうなというのは、簡単に想像がつきます。

永瀬さんはインタビューとかを読んでいて「スゴいな(笑)」という感じです。

里見香奈女流六冠のお名前が挙がりました。女流棋士を挙げたのは、豊島先生のみです。里見先生のどのあたりが努力家だと思われますか?

見るからに…(笑)。一時期、彼女と将棋を指していたことがあったのですが、ご飯を食べているときでも、マグネット盤を出してきて「この前の三段リーグで指した将棋を見てください!」といった感じで。ご飯を食べているときに盤を出されたのは、過去をさかのぼってみても三浦(弘行九段)先生と里見さんしかいないです(笑)。しかも「この局面」という部分的ではなく、初手から(笑)。

若手の棋士と食事中に、頭の中で将棋の話をすることはあっても、実際に盤まで出す人はなかなかいないです。

そしてご自身のことは、どちらかというと努力型だけど運もあってここまでこられたと。豊島先生にとって努力とはどんな意味を持つのでしょうか?

うーん。何でしょうね。人によって最適な努力の量というのが違うと思うんです。僕が永瀬さんと同じくらい勉強をしたとしても、おそらく上手くいかないです。量=努力というところもあると思いますけど、自分に合った努力というのがあるので、そこを意識してやっています。でも何なんでしょうね、努力って。

豊島先生のお話を聞いていると、たしかに意識をして努力をしている感じはしません。永瀬先生に過去お話を伺った際にも「努力は息をすること、無理をしていることではなくて自然にできていること」と話されていました。特段に歯を食いしばってやるものでもないということなのですね。

羽生先生との棋聖戦に挑戦して1勝3敗で負けた4年前くらいはそういうふうに自分を追い込んで勉強をしていたんですけど、あんまり上手くいかなかったんです。

やっぱり自分と羽生先生や渡辺先生の間には、まだまだ力の差があるという自覚があって、その差を埋めるために相当な負荷をかけていました。

時間のボリュームでいうと、いまとそんなに変わらないと思うんですけど、自分の頭を相当使って複雑なことばかりやっていたんです。難しいことを考えることも必要なんですけど、やっぱりやりすぎは逆効果だったんです。

豊島先生は本当に将棋のことが好きだなと。「将棋は楽しいです。昨日負けた私がいうのですから間違いありません」という言葉が印象に残っています。将棋の勉強は全然苦ではありませんか?

かなり昔の発言ですね(笑)。いまも対局の次の日でも勉強はやっています。でもそんなにキツイことはやっていません。わりと楽にやれることをこなしつつ、少しだけキツめのこともやるというメリハリをつけています。

とてもたくさんの手数を読まなくてはいけないような詰将棋を、何時間もうんうん唸っていたらキツイじゃないですか。気持ちよく考えるか、苦しみながら考えるかで同じ考えることでもまったく負荷が異なるんですよね。最近はその良いバランスを見つけられてきました。

将棋に限らないかもしれませんが、練習時間を増やしてでも簡単なことを気持ちよくやったほうが上手く回っていくと思っています。

先生はVSや研究会などをされずにひとりで研究されていることで知られています。過去のご発言の中では「ひとりでの勉強は、いかにモチベーションを保つことができるか」とのことでした。どのようにモチベーションを保たれているのでしょうか。

いまは自然とできています。タイトル戦に出続けて、注目される場で指せているのが大きいです。タイトル戦に出る前まではモチベーションを保つのがかなり難しかったです。

いまは多くの方に見ていただいているので、下手な将棋は指せないですし、自分なりに最善を指していかなければならないということで、モチベーションは上がります。

ひとりで研究されて寂しいだとか孤独だという感情はありませんか?

あんまりそういうのは思わないです(笑)。家で勉強しているときはないです。

集中力は続くほうですか?

続かないときもありますよ(笑)。他のことが気になるときもありますけど、そういうときはたいてい疲れているときですよね。

豊島先生がプロになりたての四段のとき、「棋士にとっていちばん大切な資質は?」という問いに「負けず嫌い」だと答えています。それはいまも変わりませんか?

いまは別にそうは思わないです(笑)。もう負けると自然に「勉強しないと」となりますから。「負けて悔しい」とかじゃなくて、自然に将棋をやっているので。

いまだと大事な資質は…何なんでしょうか。やはり「環境に適応する力」ですかね。どんどん状況が変わっていくじゃないですか。

たしかに5年前と比べ、将棋界の進化のスピードはどんどん上がってきているように思えます。

だんだんひとりの棋士が大勝ちするのが難しい時代になってきているとは思います。藤井さんは能力が高いので、いずれはそうなる可能性がありますが…。基本的には難しくなってきていると思います。

研究スピードも上がってきていますし、ソフトが人間よりはっきりと能力的に上なので、もう「羽生マジック」みたいなのは出づらいかもしれません。家に帰ってソフトで調べたら「ここで自分が間違えたから逆転が起こったんだ」というのも一瞬でわかってしまう時代です。

そういう意味で、なかなかひとりで大勝ちするのは難しいのかなと思います。でも藤井さんはそういう想像を超えてくる可能性はあるのかなと思います。

最後の質問です。先ほどの四段のときのインタビューで、「名人と恋人はどちらを選びますか?」という質問に、「名人」だと答えられていました。名人位を獲得されたいま、改めてどちらを選びますか?

そんな質問もありましたね(笑)。でも恋人を取るとはどういう意味だろう? 考えてみると質問の意図がよくわからないですよね。崖とかにぶら下がってるとしたら…? 人命がかかってたら、もちろん人命じゃないですか(笑)。

今回、参考にさせていただいたインタビューや書籍などのリストになります。どれも素晴らしい内容ばかりです。ぜひ合わせてご覧ください。

情報源:【インタビュー】【豊島将之名人】「負けて悔しい」ではなく、自然に将棋をやっている – ライブドアニュース




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