撮影後に「走り足りないので、これから走りに行きます」と笑った菅井竜也七段。

将棋は5歳、ランニングは4歳から。ほぼ毎日走る信念の棋士、菅井竜也。 – 将棋 – Number Web

へぇ・・・


2019/10/05 08:00

撮影後に「走り足りないので、これから走りに行きます」と笑った菅井竜也七段。
撮影後に「走り足りないので、これから走りに行きます」と笑った菅井竜也七段。

将棋は、タフなメンタリティが要求されるマインドスポーツだ。

対局時間が12時間を超えることはザラだし、常に数十手先まで局面を読み続ける。終始優勢に進めていた対局でも、終盤のわずか一手の見落としで突如暗転することもある。最後の最後まで、気を抜くことは絶対に許されない。

発売中の「Number Do」の特集は「メンタル強化大作戦」。メンタルとランニングの関係を様々な角度から読み解いている。

その中で、今回インタビューを行ったのが菅井竜也七段だ。豊島将之名人や斎藤慎太郎前王座をはじめ、2014年に竜王位を獲得した糸谷哲郎八段、’17年に名人位に挑戦した稲葉陽八段など、トップクラスの実力者が揃う関西若手棋士の中でも、菅井七段の強さは特筆すべきもの。

’17年には8大タイトルの1つである王位を獲得、平成生まれ初のタイトルホルダーともなった。

将棋は5歳からランニングは4歳から。

その彼がランニングを日課としていると知った時は、少なからず驚いた。失礼な話だが、菅井七段は将棋にまっすぐなイメージで、彼が将棋以外のことに取り組む姿が想像し辛かったのだ。

しかし、対局以外ほぼ毎日続けているというランニングのことを話す菅井七段は、「普段は将棋の取材ばかりなので、今日は本当に楽しいです」と対局中とは打って変わって笑顔で溢れていた。しかも菅井七段、かねてからNumber読者であり、「取材してもらえるなんて、ありがたいです!」とも。

「ランニングをはじめたのは4歳の時です。運動が苦手だったので、両親にすすめられて。将棋は5歳からはじめたので、ランニング歴の方が長いんです(笑)」

将棋ファンなら知るところだが、菅井七段の最大の特徴は、居飛車全盛の現代将棋において少数派となっている振り飛車党であり、「菅井流」とも称される独創的で攻撃的な棋風だ。そのランも独創的で攻撃的だ。

将棋のことを忘れる5分間。

「45分間走った後、最後の5分は、ほぼ全速力で追い込みます。だいたいランニングの最中でも、将棋の局面や次の対戦相手のことを考えていますけど、この5分間だけは吹っ飛んでます。まあ、キツくて(笑)。毎日この5分はイヤですね。1分将棋とかあっという間じゃないですか。それなのにこの5分は、本当に長いです」

ではイヤなことをなぜ、続けられるのか。その理由をこう続けた。

「苦手なことやイヤなことを1日1回、クリアしたいんです。人間と人間の勝負ですから、あきらめないとか、辛抱強く耐えるとか、そういう要素が将棋には必要だと思います」

すべては将棋のために。

真面目で、ストイック。そして、言葉を選ばずに言えば「頑固」。

それが菅井竜也という棋士の魅力だ。ランニングのことを話す時には笑顔の絶えない彼も、将棋のことを話す時は真剣そのものだ。

プロになると東京や大阪を拠点とする棋士が多い中、彼は生まれ育った岡山に今も暮らす。棋士が集まって研究を重ねる「研究会」や実戦形式の練習将棋もしづらい環境だが、「地方に住み続けることで、不利な要素はありません」と言い切る。

「昔の大先輩の話では、東京の最新情報が地方に届くのは1カ月後。大阪でも1週間後だったそうです。でも今はコンピュータがこれだけ進歩していますから、情報で遅れをとることはない。それでも10代のころは都会に出たかったんですよ。でもじきに、どこにいても将棋が強くなるのは自分次第だということに気付いたんです」

コンピュータに評価されない戦法を愛して。

現代将棋はコンピュータと切っても切れない関係にある。彼もコンピュータ将棋で強くなった棋士だ。

そして、’14年には棋士と将棋ソフトが戦う「第3回電王戦」でソフトに敗れた経験もある。コンピュータの進化とともに、振り飛車を指す棋士は減ってきている実情もある。その理由をこう話す。

「コンピュータの強さは、今は人間を遥かに超えています。そのコンピュータでは振り飛車が評価されにくくなってきているんです。もっと言えば戦法として成立していないというような厳しい見方もされている。

でも一方で、アマチュアでは振り飛車の人気が高いんですよ。プロで流行しているような居飛車の将棋はアマチュアの方々には難しすぎます。やっぱりプロの棋士はファンに喜んでもらえる将棋を指さないといけないですし、なにより自分はコンピュータに評価されなくても、振り飛車が一番いい戦法だという感覚があるんです」

「精神力って熱いイメージですけど」

岡山に住み続けること、振り飛車を指し続けること。その「信念」を貫く精神力に支えられて、彼は勝ち抜いてきた。では、「精神力」と聞かれて思い浮かべる棋士とは誰なのか。

「人によって違うとは思いますが、谷川(浩司)先生です。ほとんどの棋士は形勢が良い時も悪い時も、表情に出ます。羽生(善治)先生でもそう。でも谷川先生は、常に姿勢もピシッとしたまま。朝10時でも、夜の10時でも、勝つ時も、負ける時も、変わりません。

精神力って熱いイメージですけど、いつも優雅に将棋を指すというのは、並の精神力ではないと感じます。ただ、目標にはしたいですけど、自分には無理。自分のすぐカーッとなるスタイルから転向するのは現実的ではない。格好いい服を着たいけど、自分には合わないっていう感じですかね(笑)」

さて、今回撮影を行ったのは、彼の地元・岡山。カメラマンと筆者のリクエストに応え、ランニングウェアのまま、彼の象徴ともいえる「飛車」の駒を持ってもらうなど、かなり無茶をお願いした。

何往復も走ってもらったが、「まだまだいけますよ!」とメンタルだけでなく、ランニングで鍛えられた身体もかなりタフだ。棋士仲間と参加した「大阪城ナイトラン」以外にランイベントにも参加したことがないというが、これだけランを継続しているのであれば、レースへの出場を考えたことはないのか? と訊いてみた。

「いや、やっぱり自分はあくまで棋士ですから。将棋のために走っていることを忘れないようにしないと」

やはり、すべては将棋のためなのだ。

情報源:将棋は5歳、ランニングは4歳から。ほぼ毎日走る信念の棋士、菅井竜也。 – 将棋 – Number Web – ナンバー


ふむ・・・