ふむ・・・
2019年5月28日07時00分
経世彩民 堀篭俊材の目
コンピューターがプロ棋士を負かす日は?
約20年前に「2015年」と予想した棋士がいた。先日、1433勝の公式戦歴代1位に並んだ羽生善治九段(48)。弱冠25歳で史上初の「七冠王」になったころのことだ。
実際に人工知能(AI)が現役棋士を初めて破ったのは13年だったが、ほぼ言い当てた。この予言は1996年版「将棋年鑑」にでてくる。同じ質問に、当時50代だった「ひふみん」こと加藤一二三九段(79)は「来ないでしょう」と答えている。すでにチェスでコンピューターは王者と互角に勝負していたが、持ち駒が使え、選択肢が多い将棋では「人には勝てない」と考える棋士も多かった。
経済という言葉の語源「経世済民」には「世をおさめ、民をすくう」という意味があります。新コラム「経世彩民」では、記者が日々の取材を経て思うこと、伝えたいことを色とりどりの視点でつづっていきます。原則、毎週火曜朝に配信します。未来を的中 羽生九段の読みと誤算
平成の棋界を支えた天才は、なぜ予想できたのだろう?
先日、羽生九段にインタビューする機会にめぐまれ、たずねてみた。「昔から認知科学の分野と接点があり、ソフトの開発をしなくても、ハードの進歩だけで(棋士に)追いつけるようになる、と聞いたことがあって」
かつて羽生九段は、人の思考の仕組みを解明する認知科学の研究対象だった。わずか3秒で盤面を記憶し、一瞬で次の一手を絞り込む。その思考経路が科学者を驚かせた。
ひとつ羽生九段に読み違えがあったとすれば、ハードだけでなく、ソフトが格段に進歩したことだろう。1年前の古いバージョンに最新のAIソフトは8割勝つといわれる。
なぜソフトはここまで強くなったのか。
羽生九段が2年前からAIを使い始めたのは「ギットハブ(GitHub)」というソフト開発者のためのサイトを知ったのがきっかけだった。最新の将棋ソフトのほとんどがオープンソースで無料公開され、プロでもアマでも分析や研究ができる。開発者も参加して工夫を加える。多くの人がアイデアを持ち寄るオープン化により、ソフトは驚異的な進化を遂げた。「チェスにも囲碁にもない将棋の大きな特徴」と羽生九段はいう。
「棋士の卵」たちの洗練された作戦
日本将棋連盟の子供将棋スクールで教える上村亘四段(32)は、棋士の養成機関である奨励会に入る「卵」たちをみて感じることがある。「自分たちのときと比べて作戦がとても洗練されている。AIの影響が棋界の底上げにつながっている」。将棋界に起きた変化は棋士のレベルアップだけではない。
AIを本格的に活用する藤井聡太七段(16)の活躍は、オンラインゲームに押され、人気が低迷していた棋界を活気づけた。日本生産性本部の「レジャー白書」によると、中学生だった藤井七段が29連勝した17年、将棋を1回でも指した人数を示す参加人口は700万人と、前年より170万人も増えた。
藤井七段が予想する未来とは
4月29日、平成の棋界を彩った棋士が集まるイベントが都内であった。「令和の棋界はどうなる?」という質問コーナーで、藤井七段は考えこんだあと、フリップに書いた。「人間と一度も対局せずに棋士になる方が出てくるのではないかと思います」
インタビューで羽生九段も予言した。「いまの若い棋士たちも将棋を覚えてからAIを使っている。真の意味でのAI世代は5年先、10年先に出てくる」。藤井七段も、先の名人戦で勝利した豊島将之・新名人(29)も、AI時代の最初の世代にすぎない。
AIは物語をまだつくれない。棋士が対局していく中で、物語をつくることができれば存在できる――。羽生九段はそう言いきった。
令和の時代、藤井七段を超える真のAI世代の棋士は現れるのか。そして、どんな物語を見せてくれるのだろう。(編集委員・堀篭俊材)
情報源:AIに負けると予言した羽生九段 藤井七段の予言は?:朝日新聞デジタル
ほぉ・・・