ほぉ・・・
2019年5月12日05時00分
人工知能(AI)が自分の力を上回ったとき、人はどう向き合えばいいのだろうか。AIとともに生きる覚悟を決めた棋士たちを追った。(大津智義、編集委員・堀篭俊材)
羽生善治九段(48)があの日敗れた相手は、実はAIだったのかもしれない。
1月28日、東京・将棋会館であった朝日杯将棋オープン戦1回戦で、羽生九段は千田翔太七段(25、当時六段)の初挑戦を受けた。
持ち時間が短く、瞬発力のある若手が有利とされる「早指し戦」は、中盤から後半にかけて羽生九段が一方的に攻める展開が続いた。しかし、92手目に形勢が逆転する。千田七段が王手の角を打った。
「あの手で、はっきり形勢がよくなった」と千田七段は振り返る。ギリギリまで相手をひきつける。「そのタイミングを学んだのは将棋ソフトの影響です」
約1時間50分、116手に及んだ対局は、平成の将棋界をリードしたベテラン棋士の敗北で終わった。
コンピューターソフトを使いこなし、将棋界に台頭した千田七段や藤井聡太七段をはじめとする10~20代の棋士たち。彼らの「指南役」であるAIの進歩に羽生九段も目を見張る。
「ソフトは、1年前の古いバージョンに8割勝つと言われる。棋士が1年前の自分に8割勝つのは相当大変なことで、これは驚異的なスピードです」
長い間、コンピューター将棋とプロ棋士の将棋は別々の世界で発展し、交わることがなかった――。羽生九段は、そう考えていた。
「ただ最近は、将棋ソフトが非常に強くなった。最新ソフトがネットで無料公開され、簡単に手に入る」。AIの成長が人間の棋士たちの成長を促す。「プロの棋士が指す将棋の中身が(AIで)再構築され、積み上げられてきたセオリー(定跡)が一つずつ、見直される段階に入った」
羽生九段も2年ほど前から無料公開されるソフトを使うようになった。「新しいものをとり入れつつ、自分なりの個性をどう出すのか。現代の棋士はだれもが問われている。1回の勝負では関係なくても、100局も200局も重ねていけばだんだん効いてくる」
その言葉を早速、現実にしたのか。3月17日に放送されたNHK杯テレビ将棋トーナメント。朝日杯と同じ早指し戦で、羽生九段は7年ぶりに優勝。一般棋戦の最多優勝回数を45に伸ばした。昨年、27年ぶりに無冠となった「現役最強棋士」の健在ぶりを印象づけた。
そんな彼の目に、AI時代の棋士はどう映るのか。
「今の棋士たちも将棋を覚えてからAIを使い出した。本当の意味でのAI世代は5年先、10年先に出てくる」。そして、覚悟を決めたようにこう続けた。
「新たな世代の棋士たちとは必ず指すことになる。勝負はやってみなければわからないが、そこは楽しみなんです」
■「ソフトだけの方が好ましい」
一方、1月の朝日杯で羽生九段を破った千田七段からはどんな景色が見えるのか。「AI時代の申し子」とも言われる彼は断言した。「最強ソフトだったら羽生さんでも、ほぼ勝てないでしょう」
5歳で将棋を始め、小学6年のころ将棋ソフトを知った。ソフトを本格的に使い始めたのは、プロになった翌年の2014年。王位戦の挑戦者決定戦に敗れ、「棋力の向上」の大切さを痛感したのがきっかけだ。
「10年、20年後は棋士がソフトで学習している姿しか思い浮かばなかった」。人間同士の棋譜を並べて研究するのをやめた。
練習で人と対局することも基本的にはしない。人間だと相手が考え込む時間があるため、効率が悪いからだ。
ソフトに頼る利点を千田七段はこう考える。「人間は分かりやすい展開を選ぶが、ソフトだったら駒を捨てる手も気にせずにやる」。欠点はあまり感じない。AI同士の方が、形勢の有利不利を数字で表す評価値や読み筋が表示され、役立つと思っている。
千田七段は今、子どものころからソフトで学べる環境をつくることが大切だと訴える。人間の棋譜からだと悪い手や悪い感覚も身についてしまうからだ。「ソフトだけの方が好ましい」とさえ言う。
実際、子どもたちにとって「激指(げきさし)」「将棋ウォーズ」などの将棋ソフトはもう当たり前の存在だ。
日本将棋連盟主催の子供将棋スクールに東京都内から通う藤田和士君(7)は「ソフトはどの手が最善なのかわかるので、とても勉強になる」。藤井七段のように、中学生でプロ棋士になるのが夢だ。
教室で講師を務める上村亘四段(32)は、AIの影響をひしひしと感じる。「AIという言葉を自然と口にする子もいて、びっくりする。自分の世代では考えられない」と話す。
■恐怖心ゆえの手、面白さ不変
「将棋界ではシンギュラリティーが起きた。もはやAIは敵か味方かではない」。17年、佐藤天彦名人を破ったAIを開発したエンジニアを擁するAIソフト会社、HEROZ(ヒーローズ)の林隆弘・最高経営責任者は言い切る。
かつては、AIに棋士の打ち筋を模倣させるプログラムの開発にはアマチュア有段者の実力が必要とされた。しかし今や、AIに人間の「教師役」はいらない。
現在の将棋ソフトには、大量の画像データから共通する特徴を見つけ出す「深層学習」というAIの技術が使われている。学習に必要な大量の棋譜をAI同士が休まずに対戦して生み出し、何千万局の中から「勝ちパターン」を自ら学んでいく。定跡にとらわれない戦術が相次ぎ登場するのも、人間の対局を参考にしなくなったためと言われる。
AIが棋士の能力を引き離せば、プロ棋士はいらなくなるのではないか。羽生九段に聞いてみた。「ソフトを使って調べることはできても、未知の局面でいい手が指せるかどうかが大切なのは、昔も今も違いはない」。人間だからこその醍醐(だいご)味があると指摘する。
「人間には恐怖心がある。恐れるがゆえに、その手を選ぶことがよくある。そこを、見ている人たちに共感してもらう。どんなにソフトが強くなっても、人間の指す将棋の面白さは変わらないと思っています」
<シンギュラリティー> 人工知能(AI)が人間を超えるまで技術が進むタイミング。技術的特異点と訳される。そこから派生して、社会が加速度的な変化を遂げるときにもこの言葉が使われ始めている。
◆次回は19日。ご意見はkeizai@asahi.comメールするへお寄せください。
情報源:(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:5 最強AI、人はもう詰んだのか(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース(コメント)
情報源:(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:5 最強AI、人はもう詰んだのか:朝日新聞デジタル
村)今日の朝刊の記事です。著しい進化を遂げた将棋ソフトと棋士たちの話です→「羽生善治九段(48)があの日敗れた相手は、実はAIだったのかもしれない」
(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:5 最強AI、人はもう詰んだのか:朝日新聞デジタル https://t.co/A6sPdG1cG6— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) May 12, 2019
へぇ・・・