カープに憧れカープで育った名監督「野球への愛」を語る(達川 光男)

カープに憧れカープで育った名監督「野球への愛」を語る(達川 光男) | 現代ビジネス

ふむ・・・


 ええ冥土の土産にもなる

―達川さんは現役時代から、何度も著書のオファーを受けながら、意外なことに頑なに断り続けてきました。テレビや新聞、雑誌にいくらコメントしても、本だけは絶対書かんぞ、と……。

本を書くというのは、自分の言葉を形として世に残すということですよね。私はこれまで、そんなことをしたいと考えたことがなかったんです。

私のおしゃべりを放送や活字で楽しんでもらえるのはええんですが、本にまとめるとなると大変だし、面倒臭い。

第一、おこがましいわ。ノムさん(野村克也氏)とは違うて、大した野球人でもないんじゃけえ。

―それが、なぜ今年になって急に書こうという気になったんですか?

まあね、私も63歳で、今後いつユニフォームを着られるかわからん。それで、私を野球選手として育ててくれた広商(広島商業)やカープの力、またそういうチームが生まれた広島の土壌と伝統の力とはどういうものか。私の経験、そこから培った自分なりの考えを、このへんで一度ぐらい形にしてみようかの、と思うたんです。

ええ冥土の土産にもなるし。冗談よ(笑)。

―なるほど、広島生まれの広島育ちで1973年には広商の捕手として夏の甲子園で優勝。プロではカープの捕手となって、優勝3度、日本一1度という実績を持つ達川さんでなければ語り得ない内容が『広島力』には詰まっています。

広島力|達川光男

カープOBで私と同世代、私らより上の世代には、こういう本を書かれた人があまりおらんのです。広島出身の私の先輩方には、’75年のカープ初優勝のメンバーだった山本浩二さん、大下剛史さん、三村敏之さん。後輩にも、山崎隆造、小早川毅彦と、’80年代の黄金時代を支えた錚々たる顔ぶれが揃うとる。

カープの土台を築いたそういう人たちとプレーした私だからこそ、いま語れることもあるんじゃないか……と言うと、やっぱりおこがましいかもしれんけど。

カープの監督をやったのは間違いじゃった

―本書には、達川さんが熱烈なカープファンだった子供のころの思い出話も出てきますね。

小学校の卒業文集に、「将来の夢」という題で作文を書きました。よくあるパターンじゃけど、「プロ野球選手になる」と書くでしょ。私はその下に、〈カープの選手〉と付けとったんよね。

中学生になると、よく友だち同士で昔の広島市民球場へカープ戦を見に行ったな。当時の球場はいまと違うてガラガラだったんで、当日券がいくらでもあるし、中学生の4~5人ぐらい内野席でも入れる。で、フェンスに駆け寄って、「サインをください」と選手に言うたもんです。そういうふうに、カープはファンと選手の距離が非常に近かったんよ。

―そういう達川少年が、地元の強豪校・広商に入り、名将・迫田穆成監督から徹底的に精神野球を教え込まれます。

厳しかったねえ。高校時代は本当にしんどかった。野球において最も重要なのは「凡事徹底」「全力疾走」。どんなに小さなプレーも練習も、それ以前の人間としての礼儀や考え方もしっかりしないといけない。

そういうことを、骨の髄まで叩き込まれた3年間でした。この「凡事徹底」は、本書の重要なテーマでもあります。

当時は毎朝5時起きで、自転車でグラウンドに行くと、お日様に手を合わせることから練習が始まる。部員数が多いから、1年坊主は最初、ボールにも触らせてもらえん。毎日、夜まで延々と走り込み、家に帰ったらテレビで深夜番組の『11PM』を放送しとった、いう世界よ。

―辛い思い出や苦労話も、達川さんの言葉で読むと、とても面白く、ためになる気がします。それがこの本の魅力でもあります。

いや、それはね、私がいつも真剣に野球の話をしとるからです。広島弁じゃからふざけとるように聞こえるのかもしれませんけど、私本人は至って真面目なもん。広島の野球ファンは実に厳しいから、うかつなことは言えませんよ。

昔の市民球場は狭かったんで、試合中も野次がよう聞こえた。投手が点を取られると「達川、インコースを使え、インコースを! ラジオ中継の解説で長谷川(良平=元広島投手・監督)さんが言うとるぞ! おまえもラジオを聞け!」。私は試合中なのに(笑)。

―引退後に指導者となった達川さんがカープの監督をはじめ、ダイエー、阪神、中日、ソフトバンクなどのコーチを歴任し、若い選手たちを手取り足取り必死に指導した様子も描かれます。

正直、カープの監督をやったのは間違いじゃったね(笑)。あの頃はよう短気を起こして、選手やコーチに迷惑をかけました。そんな自分を、よくいろんな人たちが誘ってくれたと思う。

阪神に入ったときは、監督の星野仙一さんに東京ドームで「おまえ、来年バッテリーコーチをやれ!」と言われたんです。「女房に相談してみます」と答えたら、「そんなことぐらい自分ひとりで決められんのか!」と一喝され、その場で決まりじゃったよ。

この阪神で星野さん、島野育夫ヘッドコーチに教わったことが、’17年に私がソフトバンクのヘッドになったとき、大いに役に立った。このあたりは中間管理職の読者には結構参考になることもあるかもしれません。

あんまりネタバレして、本が売れんようになると困るから、このぐらいにしときましょう。(取材・文/赤坂英一)

『週刊現代』2019年4月20日号より

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