ほぉ・・・
杉本昌隆七段の「棋道愛楽」
スポーツと同様、将棋にも反則があります。相手にタックルしたり、スーツを引っ張って破いたり……。それは冗談ですが、将棋の反則はラフプレーではなく、動けない場所に駒を置くなど、禁じ手のことです。
10月には女流棋士を含む公式戦で、わずか6日間に3回も反則負けが相次ぎました。これは大変珍しいケースです。
初心者ならいざ知らず、プロ棋士が反則などと思われるかも知れません。しかし、意外にも年に数回程度はあります。対局の極限状態が長時間続くがゆえの、一瞬の空白。エアポケットのようなものでしょうか。
反則にはいろいろありますが、一番多いのは同じ筋に歩を二つ打ってしまう「二歩」。「おや、ここに歩を打ったら有利になるじゃないか」。それが悪魔のささやきだったと知るのは、反則をした後です。
自玉に掛けられた王手を見逃すのも「王手放置」の反則。プロ棋戦でもありましたし、私もアマ15級の幼稚園児相手にやってしまったことがあります。その子は満面の笑みを浮かべながら、すごい勢いで私の玉を持っていきました。私は良いことをしたのかも知れませんが、プロとしてちょっと恥ずかしかったものです。
相手の手番なのに自分が指してしまう「二手指し」もあります。ある棋士が対局中、眠くなって、うとうとしてしまいました。隣の対局の駒音を自分の対局と勘違い。ぴしっと指すと、何と二手指し。指した本人、対局相手、記録係の全員がびっくりでした。
あらかじめ、先手後手が決まっている対局もあります。後手の人が間違えて初手を指してしまったら、たちまち負け。開始わずか数分。対局した気がしませんね。
盤上では角を左、飛車は右に並べます。これを左右逆にして開始してしまうと反則です。
ここで問題。左右両方に飛車を置いて始めたらどうなるか。飛車を並べた人の負け? そうとも限りません。自分が飛車2枚なら、当然相手は角が2枚。両者ともに正常に駒が並べられず、つまりは無勝負? 前例がないのでちょっと分かりませんが、棋士だったら双方負けにされても文句は言えない気がします。
持ち上げた駒を途中で落としてしまった場合はどうでしょうか。予定の場所に置き直せますが、落とした駒が偶然、反則のマス目にぴったりはまってしまうこともあります。「すみません」「フッフッフ、本当なら反則だけどね」。こんなやり取りを見たことがありますが、真剣勝負が一瞬和む風景です。
王手の連続で同じ局面が4回続くと、王手を掛けた側の反則負けになります。私は昔、朝日オープン将棋選手権のベスト8で、これを意識的に3回続くように指して勝ったことがあります。
こう書くと何だかひきょうのようですが、決してそんなつもりはありません。1手1分の秒読みで少しでも多く考えたいための必死の作戦、苦肉の策でした。
自分の中では、ぎりぎり反則ではない(4回指していない)確信はありましたが、何しろ秒読み中のこと。自分が数え間違えているかも知れません。いや、疲労から記録係が1回余分に記入してしまうことだってないとは限りません。
3回か4回かで自分の人生が変わります。終局後の棋譜確認は冷や汗ものでした。まだネット中継もされていなかった時代。活字で結果を見ないと安心できず、翌朝、駅の売店に走って新聞を買い、自分の記事を見て安堵(あんど)した思い出があります。
人間である以上、ミスはつきもの。私は反則そのものはありませんが、まるで反則のように悪手連発で負けたことは何度もあります。一局一局を大事に指したいものです。
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すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。
情報源:意外に多いプロ棋士の反則負け 極限状態のエアポケット:朝日新聞デジタル
村)今日が誕生日の杉本七段のコラムです→「アマ15級の幼稚園児相手に(王手放置を)やってしまったことがあります。その子は満面の笑みを浮かべながら、すごい勢いで私の玉を持っていきました」
意外に多いプロ棋士の反則負け 極限状態のエアポケット:朝日新聞デジタル https://t.co/8WSC2AdZc9— 朝日新聞将棋取材班 (@asahi_shogi) November 13, 2018
ふむ・・・