「里見さん頑張れ!」、弟子・藤井七段の相手を一瞬応援:朝日新聞デジタル

おいおいw


杉本昌隆七段の扇子を持ち、対局開始を待つ里見香奈女流四冠=2018年8月24日午前9時51分、大阪市福島区、筋野健太撮影
杉本昌隆七段の扇子を持ち、対局開始を待つ里見香奈女流四冠=2018年8月24日午前9時51分、大阪市福島区、筋野健太撮影

杉本昌隆七段の「棋道愛楽」

藤井聡太七段と女流将棋界の第一人者、里見香奈女流四冠の初の公式戦が8月24日、大阪でありました。両者の対局は2016年の三段リーグ以来。くしくも私はこの日の午後から同じ会場で対局があり、控室で興味深く勝負の行方を見守っていました。

棋士が対局に使う小物といえば扇子ですが、自分の文字が書かれたものではなく、他の棋士の扇子を使うこともよくあります。これは若い棋士に多く、羽生善治竜王の扇子で柔軟で自在な将棋を、久保利明王将の扇子で軽快な振り飛車を――。こんな思いも込めながら使います。

対局前、里見四冠がかばんから取り出した「不撓不屈(ふとうふくつ)」の扇子。ん? 見覚えのあるこの字。なんと! 私の扇子ではありませんか。あえて対戦相手の師匠の扇子を選ぶのはかなり珍しいこと。藤井七段もそうでしょうが、インターネット中継を見ていた私も意表を突かれました。

そうか、里見四冠は私の得意な重厚な振り飛車が目標なのか。うん、藤井七段の師匠だし、それも当然か……などと全く関係ないことで自分の将棋に自信をつけたりしますが、ともあれ、悪い気はしません。弟子との対戦ながら「里見さん頑張れ!」と一瞬思ってしまったのは、ここだけの秘密です。

なお、里見四冠は対局後のインタビューで「かばんに1本入れていたのがたまたま……。特に意味はありません」。うーん、深い意味があってほしかった……。少し残念です。

さて、対局は先手番の里見四冠が、得意の先手中飛車から積極的な指し回しを見せます。中盤は十分な態勢。普通の棋士相手なら、このまま作戦勝ちから有利へと進行してもおかしくないところです。

しかし、藤井七段は普通の棋士ではありません。里見四冠の一瞬のすきを突き、体を入れ替えて一気にペースをつかみます。良くなってからは危なげなく勝利。注目の対戦は藤井七段の勝利で幕を閉じました。

対局後、私は藤井七段と一緒に昼食をとり、午後から谷川浩司九段との対局に挑みました。その将棋は負けてしまいましたが、控室に戻ると、まだ藤井七段が帰らずに残っています。勝った弟子と負けた師匠。複雑な心境ですが、注目の勝負に勝って安堵(あんど)する弟子と過ごす、こんな日を味わうのも一興です。

夕方まで山崎隆之八段と3人で研究をして、夜は新聞記者の方と藤井七段、私の3人で食事しました。指定席と自由席に分かれましたが、最終の少し前の新幹線も一緒でした。負けた無念と、弟子が勝利した安心。色々な思いが入り交じった一日でした。

里見香奈女流四冠(左)と公式戦で初めて対局する藤井聡太七段=2018年8月24日午前10時、大阪市福島区、筋野健太撮影
里見香奈女流四冠(左)と公式戦で初めて対局する藤井聡太七段=2018年8月24日午前10時、大阪市福島区、筋野健太撮影

将棋界には「棋士」と「女流棋士」があり、その制度はかなり違います。

女流棋士を目指す場合、アマ有段者の少年少女が集まる日本将棋連盟の研修会に入って規定の昇級をする必要があります。棋士の場合は全く異なり、研修会のさらに上の奨励会で6級からスタート。三段リーグを抜ければ晴れてプロの四段です。

里見四冠は女流トップでありながら、今年3月まで奨励会の三段リーグに在籍していました。将棋界の歴史始まって以来の女性の棋士誕生とはなりませんでしたが、女流代表として各棋戦にも参加。今年に入ってからの男性棋士との対戦は4勝3敗と堂々の勝ち越しです。

まだ歴史が浅く、競技人口の差もあり、女性の棋士誕生はなかなか厳しいですが、道は開かれています。より高いレベルを目指し、名人を目標に奨励会に入る女性も増え、いつの日か必ず実現してくれるでしょう。

すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。

情報源:「里見さん頑張れ!」、弟子・藤井七段の相手を一瞬応援:朝日新聞デジタル


へぇ・・・