ほぉ・・・
「自分の実力からすると、僥倖(ぎょうこう)としか言いようがない」
昨年6月に関西将棋会館(大阪市)であった対局。デビュー戦から20連勝を達成した当時四段の藤井聡太(そうた)七段(16)は、インタビューでそう答えた。
「ギョウコウ?」。中学生の口から飛び出した言葉に、記者らは不思議そうな表情を浮かべ、録音したコメントを聞き直した。「僥倖」は「思いがけない幸運」の意味だが、普段は耳にすることが少ない言葉だ。
聡太はデビュー11連勝の時、「望外の結果」と感想を語った。通算50勝の時は「節目(せつもく)の数字となった」。同じ意味でも「ふしめ」とは読まないところに、非凡さを感じさせた。
「漢字が好きでしたね。小学校低学年の頃、電子辞書の中に入っていた漢字検定の問題を私と一緒に解いていました。気づいたら、大人が読むような本も読んでいました」
母方の祖母の清水育子(76)は、そう振り返る。幼い頃の聡太は、隣に住む祖父母の家が遊び場だった。
好きな作家は司馬遼太郎。歴史小説好きの母裕子(ゆうこ)(48)の影響を受けたという。ノンフィクションの名手沢木耕太郎や山岳小説で知られる新田次郎も愛読した。小学4年の頃には、新聞も読むように。社会面からめくって、気になった記事に目を通すのは今も日課だ。
聡太の言語感覚は、将棋について表現する時に顕著に表れる。
20連勝達成から約3週間後、自宅で本人を取材した。快進撃を続ける中学生棋士の胸中を聞くためだったが、本人は至って冷静だった。非公式戦ながらトップ棋士数人に勝っていたことに話題を振ると、「うーん」と考え込んだ末に、こう述べた。
「相対的にというよりは、絶対的に強くなりたい」
視線の先にあるのは、目先の勝利ではなく、ただ「強くなること」。今後、さらなる進化を遂げた時、どんな言葉を語るだろうか。=敬称略(村瀬信也)
◆毎週日曜に掲載します。
情報源:(大志 藤井聡太のいる時代)修業編:4 僥倖・節目…大人びた読書で培った言語感覚:朝日新聞デジタル
へぇ・・・