私服姿の藤井六段、「趣味」の詰将棋で浮かべた笑顔:朝日新聞デジタル

ふむ・・・


イスに座った藤井聡太六段(15)は、左手で消しゴムをくるくると回転させ、「試験」の開始を待っていた。スタッフの「始めてください」の声と共に、用紙を裏返し、詰将棋の図面を食い入るように見つめ始めた。

詰将棋解答選手権に臨む藤井聡太六段=25日午前、名古屋市、吉本美奈子撮影
詰将棋解答選手権に臨む藤井聡太六段=25日午前、名古屋市、吉本美奈子撮影

詰将棋をいかに正確に、早く解くかを競う第15回詰将棋解答選手権(同選手権実行委員会主催、朝日新聞社など後援)のチャンピオン戦。25日に東京、大阪、名古屋の3会場で開かれた。藤井六段は名古屋会場での参加となった。

第1ラウンドと第2ラウンドがあり、制限時間は各90分。39手詰めまでの問題が5問ずつ出題される。藤井六段は3年前、まだプロ入りする前の小学6年の時に史上最年少で初優勝。昨年まで3連覇中で、今年も優勝候補の大本命だった。

第1ラウンド。運営側はとびきりの難問を用意していた。合駒が次々と登場する37手詰めで、「簡単には解けないだろう」とみられていたが、藤井六段はこれをあっさりクリア。55分で全5問を解き終えて、会場を退出した。

第1ラウンドの問題を55分で解き終えて会場を退室した藤井聡太六段=25日、名古屋市
第1ラウンドの問題を55分で解き終えて会場を退室した藤井聡太六段=25日、名古屋市

ただ、報道陣の前に姿を見せた藤井六段は弱気だった。「もう誰か(部屋を)出ていますよね」。点数が同じ場合、かかった時間が短い方が上の順位になる。しかし、実際には、途中退出は藤井六段が初めて。ほとんどの参加者は、時間いっぱいまで頭を悩ませていた。結局、5問目を解けたのも藤井六段だけ。第1ラウンドを終えて、早くも単独トップに立った。

詰将棋は、任意の駒の配置と持ち駒で玉将の詰まし方を考える問題だ。実戦の終盤戦の力を身につけるのに不可欠で、藤井六段は地元の将棋教室に通っていた頃から来る日も来る日も取り組んできた。その積み重ねがあったからこそ、驚異的な読みの速さを身につけた。

第2ラウンドでは、報道陣の目の前でそれを印象づける場面があった。取材を許された冒頭の3分が経たないうちに、藤井六段は初めの問題を解き終え、解答を記入し始めたのだ。後で聞いたところ、20分ほどで4問を解き終えたという。最後の問題も見事に攻略。3会場合わせた105人の参加者の中で唯一の全問正解を果たし、4連覇を達成した。

詰将棋解答選手権4連覇をかけて、第2ラウンドの問題を解く藤井聡太六段=25日午後、名古屋市、吉本美奈子撮影
詰将棋解答選手権4連覇をかけて、第2ラウンドの問題を解く藤井聡太六段=25日午後、名古屋市、吉本美奈子撮影

あまりの強さに、他の棋士たちは舌を巻いた。優勝経験のある船江恒平六段(30)は「藤井六段の解く速さは毎年信じられないほど。詰将棋の方が、将棋以上に差を感じます」、名人挑戦権を争うA級順位戦に所属する広瀬章人八段(31)は「藤井六段の優勝は順当で、驚きはないですね」と白旗を揚げた。

表彰式でインタビューを受ける藤井六段は冷静だった。「最近はあまり詰将棋を解いていないので、全く自信がなかった」。第2ラウンドで最後まで退室しなかったのは、ミスがないか、念入りに確認していたためという。

詰将棋解答選手権で4連覇を果たした藤井聡太六段=25日午後、名古屋市、吉本美奈子撮影
詰将棋解答選手権で4連覇を果たした藤井聡太六段=25日午後、名古屋市、吉本美奈子撮影

一方で、こんな言葉も口にした。「選手権には毎年楽しみで参加している。今年も素晴らしい作品に出合えて、うれしく思う」

一般的には、トレーニングと捉えられることが多い詰将棋だが、実戦では現れないような華麗な捨て駒や意外な合駒が飛び出す問題も数多く作られている。それ自体を解いたり鑑賞したりすることを楽しむファンも多く、作り手は「詰将棋作家」と呼ばれる。江戸時代には、時の名人が詰将棋の作品集を作り、将軍に献上する習わしもあった。

詰将棋にはプロとアマの垣根がない。プロアマ問わず、選手権には全員「趣味」で参加しており、藤井六段もその一人だ。「問題」ではなく「作品」と表現したのも、詰将棋への敬意の表れと言える。

詰将棋解答選手権に臨む藤井聡太六段=25日午前、名古屋市、吉本美奈子撮影
詰将棋解答選手権に臨む藤井聡太六段=25日午前、名古屋市、吉本美奈子撮影

今年新設された名古屋会場では、藤井六段や船江六段ら6人が出場した。解答時間の合間に、解いた感想を年の近い奨励会員らと述べ合う私服姿の藤井六段は、普段の対局の時よりリラックスした笑顔を浮かべていた。

インタビューで、詰将棋の楽しさを問われた藤井六段は「あ、そうですね」と言って考えた末に、こう答えた。

「将棋は茫洋(ぼうよう)とした局面が多い。詰将棋(の手順)は割り切れていて、解けた時の気持ちよさがある」

いい作品に出合うために、また来年も参加するつもりだ。(村瀬信也)

情報源:私服姿の藤井六段、「趣味」の詰将棋で浮かべた笑顔:朝日新聞デジタル


すげぇよなぁ。