ふむ・・・
東京・将棋会館4階の大広間。正座をして前傾姿勢になった藤井聡太六段(15)は、対局前にもかかわらず、まだ駒が並べられていない盤面を見つめていた。
15日に行われた、第76期将棋名人戦C級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)の最終10回戦。藤井六段は前回の9回戦で、初戦から9連勝し、一つ上のC級1組への昇級をすでに決めていた。順位戦開幕前からの目標を達成したが、気が緩んだ様子は全くない。朝から全力投球だった。本局に勝てば、史上初の「中学生での全勝昇級」を達成する。
相手の三枚堂達也六段(24)は、対戦を楽しみにしていたという。「藤井六段の活躍に刺激を受けている。力が入った」。昨年、早指しの「上州YAMADAチャレンジ杯」で藤井六段らを破って優勝。藤井六段にとっては、公式戦2敗目となる黒星だった。
対局は午前10時に開始。後手番の三枚堂六段は、得意とする戦法「横歩取り」を選んだ。序盤から飛車と角が飛び交う激しい将棋になったが、31手目の▲7七金が三枚堂六段の意表をついた。午前中の段階で、藤井六段がペースをつかんだ。
その後、藤井六段は自分の角と相手の飛車を交換することに成功。三枚堂六段は、盤上に角を2枚打って挽回(ばんかい)を図ったが、中盤で痛いミスが出た。
図は、三枚堂六段が△3一歩と打った局面。3二にひもをつけて自陣を強化し、次に△3六角と歩を取る狙いだ。だが、藤井六段の▲3五歩が好手だった。
この歩を△同角と取ると、▲1五歩△2五角に▲4五飛とされ、2枚の角のどちらかを取られてしまう。三枚堂六段は△7五歩と突いたが、藤井六段は▲6六金と、金を前線に繰り出す。続く△3六角には▲2六飛。後手は、せっかく打った歩をただで取られてしまった。その後は藤井六段がリードを広げ、午後8時14分に三枚堂六段が投了。共に持ち時間を1時間以上残す早い終局だった。
感想戦で三枚堂六段は、△3一歩のミスを悔いた。「ひどかったですね」。そうつぶやきながら、歩を3一の地点に何度も打ち付けた。既に思わしくない形勢だったが、代わりに△3四歩など別の手の方が良かったという。公式戦2回目の対戦は、藤井六段の快勝だった。
順位戦は、名人挑戦権を争うA級から一番下のC級2組まで五つのクラスがある。C級2組の場合、6月から毎月1局ずつ戦い、10局の成績の上位3人がC級1組に昇級できる。他のタイトル戦などは主にトーナメントで挑戦者を決めるが、それらとは違う長丁場のシステムだ。
今期C級2組には50人が参加。前期成績に基づく順位順に並んでおり、同じ成績の場合は上位の棋士が優遇される。初参加の藤井六段は45位。順位が低いと9勝1敗でも昇級できないことがあり、1期での突破は容易ではない。C級2組突破に羽生善治竜王(47)は2期、佐藤天彦名人(30)は4期かかっている。
だが、藤井六段は勝ち続けた。終わってみれば10戦全勝。9勝1敗はおらず、2位以下に星二つの差をつけるぶっちぎりの優勝だった。初参加での全勝昇級は史上6人目だ。
局後のインタビューで、「全勝昇級」について問われた藤井六段は「最後、いい形でフィニッシュできたことは、うれしく思っています」と感想を述べた。
本局で三枚堂六段が誘導した「横歩取り」は、当初藤井六段がなかなか勝てず、「不得手なのでは」と言われていた戦型だ。だが、1月の佐藤名人戦(朝日杯将棋オープン戦)で勝利し、その見方を覆している。この日の感想戦の後に話を聞くと、藤井六段は「難しい局面が続いたが、模様の良さを具現化することができた」。駒組み段階でのリードを、敵陣攻略に生かせた手応えを感じさせる言葉を口にし、さらなる進化を感じさせた。
新年度からはC級1組で戦う。昨年、藤井六段の連勝を止めた佐々木勇気六段(23)ら若手精鋭や、元タイトル保持者のベテランらが顔をそろえる。藤井六段の師匠、杉本昌隆七段(49)も在籍する。同組の場合、「師弟は対戦しない」という規定があるため、直接の対決はないが、共に昇級を争うことになる。
一方の三枚堂六段は5勝5敗で今期を終えた。不満が残る成績に違いないが、感想戦では率直に意見を交わし、反省点を次の対局に生かす前向きな姿勢が見て取れた。
駒を片付けながら、三枚堂六段がこう声をかけた。「もう卒業式は終わったんですか」。中学3年の藤井六段は「まだです」と返した。三枚堂六段が「高校生活、頑張ってください」とエールを送ると、藤井六段ははにかんだ。(村瀬信也)
情報源:ぶっちぎりV、C級2組を「卒業」 進化続ける藤井六段:朝日新聞デジタル
ほぉ・・・