竜王戦第4局、前日の指し手を再現する豊島将之竜王(左)と藤井聡太三冠=2021年11月13日午前8時56分、山口県宇部市のANAクラウンプラザホテル宇部、代表撮影

「十九番勝負」の藤井聡太三冠と豊島将之竜王 7年前から紡ぐ物語:朝日新聞デジタル

勝負は藤井聡太三冠が勝ち四冠の最年少記録を更新


2021年11月13日 18時14分

竜王戦第4局、前日の指し手を再現する豊島将之竜王(左)と藤井聡太三冠=2021年11月13日午前8時56分、山口県宇部市のANAクラウンプラザホテル宇部、代表撮影
竜王戦第4局、前日の指し手を再現する豊島将之竜王(左)と藤井聡太三冠=2021年11月13日午前8時56分、山口県宇部市のANAクラウンプラザホテル宇部、代表撮影

「私と同じ愛知県出身の藤井聡太四段は、15歳という年齢の割に完成度がものすごく高い。実力的にトップの人とそんなに変わらないレベルに来ています。自分がタイトルを獲得、保持できれば、将来、タイトル戦で藤井さんとの対決もあるかもしれませんね」

「自分が活躍できる時間は限られていると思います。自分が一番得意な『将棋を指すこと』に悔いが残らないよう打ち込みたいです」

2018年1月、27歳の将棋の豊島将之竜王は朝日新聞のインタビューにこう答えた。羽生善治九段は「羽生世代」と呼ばれる同世代の棋士と競ってきた。大棋士の系譜を継ぐだろう藤井聡太三冠はいま、一つ上の世代と「4強」(藤井三冠、豊島竜王、渡辺明名人、永瀬拓矢王座)と呼ばれる時代を生きている。

なかでも豊島竜王と藤井三冠は今年、王位戦七番勝負、叡王戦五番勝負、竜王戦七番勝負とあわせて「十九番勝負」を戦ってきた。竜王戦七番勝負は藤井三冠が開幕から3連勝で、12、13日に山口県宇部市で行われている第4局に勝つと、最年少での四冠を達成する。

ただ、これまでにも二人の戦いには、たくさんの物語がある。

4強時代を象徴するような十九番勝負を戦う二人は、過去にどんな争いを演じてきたのか。朝日新聞の連載「大志 藤井聡太のいる時代」から振り返る。(年齢や肩書は掲載当時)

最初は2014年12月。藤井の師匠の杉本昌隆の紹介で、七段だった豊島は、小学6年生で奨励会初段の藤井と練習将棋を指した。

2回目は17年5月7日。愛知県岡崎市の岡崎城二の丸能楽堂で行われた岡崎将棋まつりの公開対局(非公式戦)だった。プロデビューして以来公式戦16連勝中だった藤井に、八段の豊島が快勝した。「藤井さんにとって経験の無い形で、うまく対応できなかったのでは」。豊島はそう振り返るが、藤井の才能のきらめきも感じ取っていた。

終局後、藤井が「(豊島八段の指し手が)△5四金なら、もっと自分がマズかった」と感想を述べたことを、豊島は後日、杉本から伝え聞いた。「△5四金は、浮かんだけど指さなかった手でした」。金矢倉という強固な囲いを自ら崩す代わりに、中央付近に進めた金で、先手の攻めを先に受ける好手。「藤井さんは良い感覚を持っているな、と思いました」

豊島は、名古屋から新大阪に向かう新幹線の車中で、電光掲示板に自分の勝ったニュースが流れたのを見て驚いた。「あのころの藤井さんは粗削りでしたが、今は違います」(2018年11月4日掲載)

「むちゃくちゃ強いですよね。自分の方がはっきり勝っているという点がそんなにないですから。向こうの方が明らかに終盤は強い。大変な相手です」

今月4日、大阪市福島区の関西将棋会館。「王位」と「棋聖」という二つのタイトルを併せ持つ豊島将之二冠(28)が、「将棋の日(11月17日)」を記念したイベントで、藤井聡太七段(16)の強さについて聞かれ、こう答えた。谷川浩司九段(56)と井上慶太九段(54)とのトークショーでのことだ。

豊島と藤井の公式戦初対局は2017年8月24日。第43期棋王戦の挑戦者決定トーナメントで、練習も含めると3回目の平手(ひらて)対局だった。戦いは「千日手(せんにちて)」指し直しとなり、87手で豊島が快勝した。豊島は「中盤で何回か、こう指されたら嫌だなという手を指されました。やっぱり強いなと感じました」。

豊島の将棋の特徴の一つに、人工知能(AI)の活用がある。日本将棋連盟会長の佐藤康光九段(49)が「将棋の研究にAIを積極的に採り入れ、自分を向上させるスタイルを確立した棋士」と評したほどだ。

そんな豊島が、藤井の将棋にAIの影響を感じている。豊島はタイトルに挑戦していた20代半ばから、AIを研究に使い始めた。「自分の将棋の感覚がある程度完成していたので、AIの考えとバッティングする部分があった。そこをどう整理するかが課題でした」

一方の藤井は、棋士養成機関「奨励会」の三段時代から、AIを活用し始めた。豊島はしみじみとこう語った。「三段は将棋の基本的な考え方が身についたところ。藤井さんがその段階からAIを使い始めたのは、もしかしたらベストだったのかもしれません」

将棋界のトップグループについて、豊島は「20~30人」、谷川は「20人くらい」とみている。2人とも「その中に藤井七段は入っています」と異口同音に答えた。(2018年11月11日掲載)

2019年7月19日、高校2年だった藤井聡太七段は17歳の誕生日を迎えた。17歳最初の公式戦は4日後。重要な対局が待っていた。第32期竜王戦の決勝トーナメント準々決勝。相手は当時、王位と合わせて二冠の豊島将之名人(30)。対局前の時点で公式戦では豊島の2勝0敗。藤井にとって難敵だった。

7月23日、大阪市福島区の関西将棋会館での対局。会館2階の道場では大盤解説会が特別に催された。戦型は「角換わり」。序盤で豊島が端攻めも視野に自陣角を放ったのに対し、藤井は玉を端から遠ざけ、中央に組み替えた。この藤井の構想が秀逸で、豊島は「うまく指され、作戦負けでした」。

夜戦に入り、力のこもった応酬が続き、形勢は微妙に揺れたようだ。両者とも5時間の持ち時間をほぼ使い、1分将棋に。最後は豊島が藤井玉をぴったり詰ます順を発見し、熱戦に終止符を打った。終局は午後10時48分。直後のインタビューで、勝った豊島は「分からないまま指していた」と2度、繰り返した。敗れた藤井は「駒がぶつかってからの『読みの精度』で差が出てしまった」と冷静に語った。藤井にとって竜王挑戦の可能性を断たれる、痛い黒星だった。

藤井に勝った豊島は、続く準決勝で渡辺明三冠(36)に勝利。その後の挑戦者決定三番勝負では木村一基・当時九段(46)に2勝1敗で競り勝って挑戦権を握り、竜王奪取につなげた。付け加えると、挑戦者決定三番勝負第3局で豊島は、玉を中央に組み替える作戦を採用した。そう、豊島が「作戦負け」を余儀なくされた、あの藤井の構想だ。後日、豊島は「あの構想は勉強になりました」と明かしている。藤井戦は豊島にとって竜王への道を切り開く、大きな勝負だった。(2020年6月21日掲載)

「三冠を目指す二冠同士の激突」と注目されたのが2020年10月5日、関西将棋会館(大阪市)での藤井聡太(19)と豊島将之(31)の一戦。王将の渡辺明(37)への挑戦権を争う第70期王将戦の挑戦者決定リーグ戦(通称・王将リーグ)。勝者は王位・棋聖の藤井か、竜王・叡王の豊島か。

王将リーグは7人の総当たりで、それぞれ6対局し、優勝者が王将に七番勝負を挑む。「2敗すると単独首位での挑戦権獲得は難しくなる」が定説だ。本局は両者にとってリーグ2戦目。初戦で豊島は木村一基(48)に勝ち、藤井は羽生善治(51)に敗れた。本局は特に藤井にとって負けられない一局だった。

戦型は「相懸(あいが)かり」に。先手の豊島が序盤で工夫した指し方を披露。その後、リードを奪った藤井が豊島玉を追い詰めたが、明快な勝ち筋を逃し、混戦に。対局開始から約11時間後、勝ったのは粘り強く指した豊島だった。逆転負けした藤井は「(挑戦には)厳しいスコアになってしまいました」と話した。

公式戦での対戦成績が豊島6連勝(=藤井6連敗)となったことも話題だった。過去5局は(1)棋王戦(17年8月対局)(2)銀河戦(19年5月)(3)竜王戦(19年7月)(4)王将戦(19年10月)(5)日本シリーズ(20年9月)。

藤井にこれほど大きく勝ち越した棋士はこの時点では豊島だけ。藤井戦6連勝の感想を後日、記者が尋ねると、豊島は、しばし沈黙した後、「たまたまだと思います」。

実は、非公式戦だが、18年12月の新人王戦の記念対局では藤井が豊島に勝っている。終局直後の対局室内は公式戦同様の真剣な気配だった。こうした事情に加え、本局も大逆転勝ち。6勝0敗という数字ほどの差は無いと豊島は感じていたのだろう。(2021年11月7日掲載)

「大志 藤井聡太のいる時代」の連載は現在、昨年の二人の関係まで描いている。豊島竜王は対戦成績が6勝0敗だったときから、数字ほどの差を感じていなかった。事実、今年の竜王戦第4局が始まるまでに藤井三冠は豊島竜王に6連勝を返している。

豊島竜王は20年に名人を獲得した翌日、藤井三冠についての印象的な言葉を残している。

「素晴らしい才能の持ち主で、さらに強くなっていくと思う。彼が25歳の時に自分は37歳。自分が相当うまくこれからの時間を過ごしていかないと、彼が全盛期の時に戦うのは難しいかなと思っている」

対して藤井三冠は「そう言っていただけるのはありがたい。豊島名人と互角に戦えるように実力をつけたい」と話していた。

いま、藤井三冠は竜王獲得を狙い、最年少四冠になろうとしている。全盛期が25歳だとすれば、さらに高い頂へと上っていくことになるのだろう。

そのとき豊島竜王は、当然のように立ちはだかるはずだ。「相当うまくこれからの時間を過ごし」て。それは想像を絶する心身の鍛錬を続けていくことに他ならない。

結果はどうであれ、二人の物語はこの先も続いていくだろう。

情報源:「十九番勝負」の藤井聡太三冠と豊島将之竜王 7年前から紡ぐ物語:朝日新聞デジタル



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