最年少で三冠に輝いた藤井聡太棋士。多方面で活躍【写真:Getty Images】

藤井聡太三冠を目指して 親が知っておきたい「日本文化」としての将棋の素晴らしい側面 | Hint-Pot

真田圭一八段


2021.10.11

最年少で三冠に輝いた藤井聡太棋士。多方面で活躍【写真:Getty Images】
最年少で三冠に輝いた藤井聡太棋士。多方面で活躍【写真:Getty Images】

将棋の藤井聡太三冠(王位、叡王、棋聖・19)の大活躍で、我が子にも頭を使う将棋を習わせれば藤井三冠のように頭が良くなるのではないか、あわよくばプロ棋士を目指してほしい、と考える親もいるのではないか。確かに、将棋は脳トレになりそうだし、好きなことが職業になるのは理想的に思える。しかし、実利的なメリットだけではなく、将棋を習うことで身につけられること、学べることがあるという。プロ棋士の真田圭一八段(48)に“将棋道”ともいえる将棋の魅力を聞いた。

◇ ◇ ◇

子どもと将棋を指す際、親にとっての鉄則は「勝たないこと」

藤井聡太三冠の大活躍で、将棋を習う子どもたちが増えています。棋士としては喜ばしいことで、多くの方に将棋に接してほしいと願っています。

将棋は音楽でいう「絶対音感」同様、接するのは早いに越したことはありません。5~6歳ぐらいでルールを覚えるのが理想的です。ただ、小学生のうちなら、どの年齢でも吸収、上達は早いです。大事なことは一つだけ。無理強いしないこと。将棋が嫌になってはすべてが台無しだからです。

私自身、2人の子の親で、小学5年の長男と小学3年の長女がいますが、ルールを教えただけで無理強いはしていません。妻も元女流棋士(真田彩子女流三段、旧姓・古河)ですが、2人で話し合い、そのような教育方針を取っています。

将棋の世界でプロを目指すのは、本当に過酷な道程であることが身にしみていて、藤井くんのような天才は、プロ棋士の夫婦が必死になっても意図的に作れるものではないとよく分かっているからです。結果、子どもたちは普通の小学生らしく、兄妹ともにゲームといえば携帯ゲーム機に熱中する日々で、将棋はそれぞれマイペースに接している感じです。

しかし、もし子どもの興味が将棋に向いたら、その瞬間に「鉄は熱いうちに打て」で、熱が冷めない環境作りをする。そして、もし親子で対局することがあれば、親にとっての鉄則は「勝たないこと」だと思っています。勝ちたい場合は9回負けてから1回勝つ。将棋というゲームは「勝ってますます強くなる」ゲームです。たくさん勝たせて勝たせすぎることはありません。

ちなみに、私の場合は小学1年、6歳の時に祖父宅にあった将棋盤に興味を持ったことがきっかけです。祖父がプレゼントしてくれた簡易な将棋盤と駒を使って将棋を覚えました。今思えば、祖父は初孫だった私と将棋を指したかったのだと思います。覚えてすぐ将棋に熱中し、12歳でプロの修行機関・奨励会に入り、19歳でプロに。以来、30年近くプロ棋士として生きてきました。

敗北宣言によって決着するのは日本の将棋のみ

将棋にはどのようなイメージをお持ちでしょうか? 2人で行う室内ゲーム、という方が多いと思います。確かに将棋はゲームです。しかも、ただのゲームではなく現在のルールになって400年以上、未だに必勝法がない、つまり解明されていないという世界に誇れる素晴らしく完成度の高いゲームです。

この点だけ見ても、将棋は一生趣味として楽しむ価値があるのですが、それだけではもったいない。なぜなら、将棋には「日本文化」としての素晴らしい側面があります。それを知れば、将棋を子どもたちに習わせる魅力は何倍にも増します。

例えば、将棋は2人で行うゲームで、最終的に決着、つまり勝敗が決まります。この時、将棋では「投了」という手続きをもって決着します。投了とは、負けを認めた側が「負けました」と意思表示をすることです。実は、世界中のあらゆるスポーツ、ゲームなどにおいて、この投了という敗者の意思表示、敗北宣言によって決着するのは日本の将棋のみです。

負けたら必ず「負けました」と言わなければなりません。負けを受け入れ、自分の口で相手や周囲に告げる、という行為は、慣れないと大人でも非常につらいものです。「勝ち組」という言葉に代表されるような、とにかく利益、プラスを求める発想で固まってしまった頭では、「負けました」と頭を下げる行為には抵抗感が伴うはずです。でも、そのつらい行為を必ずしなければなりません。それが将棋の作法なのです。

この投了という作法には、日本独特の「潔さ」という大切な精神文化が凝縮されています。潔い、という感覚は日本人なら誰しもが心の奥底にあり、深い説明は要しないものです。負けを認めることはつらくても、認めた先に得られる心地よさがあります。潔さを実践する機会は、日常生活にはなかなかありません。しかし、将棋にはこの潔さを対局(将棋を指すこと)で味わい、体感できる仕組みが組み込まれているのです。

玉と王の違いには礼儀の「礼」の思想が

王を持つのは上位者または年長者。玉は下位者または年少者という決まりがある(写真はイメージ)【写真:写真AC】
王を持つのは上位者または年長者。玉は下位者または年少者という決まりがある(写真はイメージ)【写真:写真AC】

もう一つ、将棋の日本文化としての素晴らしさを示すものを紹介します。将棋の駒をよく見ると、一番大切な駒である玉が、もう一つは王という表記になっていることが分かると思います。

玉と王、読み方も「ぎょく」と「おう」で違いますし、見た目も違います。機能はまったく同じにもかかわらずです。これには意味があって、王を持つのは上位者または年長者。玉は下位者または年少者。こういう決まりがあるのです。

これは礼儀の「礼」の思想が入っていて、これも潔さと同様、日本人ならその大切さが分かる精神文化です。例えば、初対面の2人が対局しようとした場合、お互いが自分を伝えて、かつ相手の話に耳を傾けるという、最低限の礼儀をわきまえていないと、王と玉をどちらが持つかがいつまで経っても決まりません。つまり、身のほどをわきまえない礼儀知らずは、そもそも対局ができないことになります。将棋はゲームですが、ゲームである以前に文化なのです。

「負けました」という投了の作法と玉と王の違い。この2つを理解するだけでも、将棋を子どもに習わせることに魅力を感じていただけるのではないでしょうか。礼儀と潔さの大切さを体得しつつ、世界最高峰の完成度のゲームを楽しみ、かつ頭脳トレーニングができる将棋にぜひ触れていただきたいと思います。

(真田 圭一)

真田 圭一(さなだ・けいいち)
1972年10月6日、千葉県八千代市生まれ。故・松田茂役九段門下。85年、奨励会に入り92年4月、四段に昇段しプロ棋士に。97年、第10期竜王戦でタイトル初挑戦。98年、将棋大賞新人賞受賞。99~2003年、日本将棋連盟理事を務めた。16年、八段昇進。

情報源:藤井聡太三冠を目指して 親が知っておきたい「日本文化」としての将棋の素晴らしい側面 | Hint-Pot



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