（大志　藤井聡太のいる時代）戴冠編：９　最年少１７歳１１カ月、ついにタイトル獲得：朝日新聞デジタル

前期の棋聖戦

2021年7月11日 5時00分

「初戴冠」と揮毫した色紙を手に笑顔の藤井聡太＝２０２０年７月１６日

その時が、ついに来た。

藤井聡太（１８）の初戴冠。舞台は２０２０年７月１６日、大阪市福島区の関西将棋会館での第９１期棋聖戦五番勝負の第４局。

開幕２連勝で棋聖奪取にあと１勝と迫った藤井だが、同９日の第３局では棋聖の渡辺明（３７）に敗れた。渡辺の研究の深さが光り、藤井はタイトル戦での初黒星を喫した。

１６日午前９時に始まった第４局は、先手の渡辺が得意の「矢倉」の戦型に誘導。しかも、藤井が△３一銀という絶妙手を放って勝った第２局と同じ「急戦矢倉」。第２局で敗れた渡辺が改良策をぶつけ、対応するため藤井は長考を余儀なくされ、渡辺ペースという評判だった。

コロナ禍のため、現場で取材できる記者の数は制限されたが、それでも３５社７１人が集まった。報道陣が「藤井逆転か」と色めき立ったのは午後６時すぎ。渡辺の意表を突く藤井の攻めが利いていた。そして午後７時１１分、渡辺が「負けました」。１９９０年に屋敷伸之（４９）が樹立した１８歳６カ月というタイトル獲得最年少記録を、当時１７歳１１カ月の藤井が塗り替えた瞬間だった。

すぐ対局室へ。関西囲碁将棋記者クラブ幹事社として質問を許された。五番勝負の４局のうち最も印象に残った将棋を尋ねると、藤井は唯一敗れた第３局を挙げ、「気付かない好手を多く指され、勉強になった」。藤井の謙虚さに改めて感心した。タイトル戦で初めて年下の棋士に負けた感想を渡辺に聞くと、「すごい人が出てきたな、という感じですかね」。藤井の強さが浮き彫りになった。その後、別室に移動した藤井は「初戴冠」と揮毫（きごう）した色紙を手に撮影に応じ、師匠の杉本昌隆（５２）から花束を受け取った。師弟が関西将棋会館の外に出ると、「ウオーッ」という大歓声。３日後に１８歳の誕生日を控えた若きヒーローを大勢のファンが待っていた。翌１７日、全国紙５紙の朝刊１面を藤井の初戴冠のニュースが飾った。＝敬称略（佐藤圭司）

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