（大志　藤井聡太のいる時代）戴冠編：５　残り１０分…永瀬の猛襲に異彩放つ受け：朝日新聞デジタル

前期王位戦、挑戦者決定戦

2021年6月6日 5時00分

棋聖戦に続いて王位戦でもタイトル挑戦を決めた藤井聡太（右）。左手前は永瀬拓矢＝２０２０年６月２３日、東京都渋谷区、日本将棋連盟提供

２０２０年６月２３日、藤井聡太（１８）は第６１期王位戦の挑戦者決定戦に臨んだ。

王位戦では過去２回、予選で敗退していたが、この期は予選を勝ち抜き、６人ずつ紅白２組に分かれて戦う挑戦者決定リーグに初めて入った。勝率８割超の安定度から、リーグに入れば勝ち上がる可能性は高いと思われていたが、評判通り５戦全勝で見事優勝。もう一方のリーグで優勝した永瀬拓矢（２８）と挑戦者決定戦で対戦した。

先手の藤井は角換わり早繰り銀を採用。対する永瀬も攻め合い含みで受けて立ち、藤井の残り時間が３０分を切ったあたりで藤井陣に襲いかかった。

ＡＢＥＭＡで解説していた佐藤天彦（３３）は永瀬の攻めに直接対応する手を予想し、「他の手もちょっと難しいですかね」。しかし、残り１０分となった藤井は▲４八金と、攻められている箇所から遠く離れた金を動かした。戦いに備えて自陣を整備するしぶい手だ。

さらに攻め込まれた藤井は、角取りに桂を打たれたところで飛車取りに桂を打ち返す。藤井が席を外すと永瀬は前かがみに盤をのぞき込んだ。この後も金取りに馬取りで切り返すなど、藤井は強気の受けを連発し、永瀬の攻めが一息ついたところで反撃。最後は玉を安全な場所に早逃げして勝利を確実にした。

終局後、永瀬は「一局を通して力負けの印象がありました」と脱帽。藤井は棋聖戦の挑戦者決定戦に続き、王位戦でも永瀬を破って挑戦権を獲得した。

王位戦は持ち時間が８時間の２日制。藤井は「慣れないこともあると思いますが、じっくり考えて指せることを楽しみにしています」と抱負を語った。

攻めだけでなく、受けにも異彩を放った藤井将棋を振り返って、佐藤は「今に至るまでのことを考えると、安定感というのはさらに増しているのかもしれない」。その藤井を待ち受けるのは、「千駄ケ谷の受け師」の異名を持つ木村一基（４７）である。＝敬称略（村上耕司）

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