ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影)

藤井聡太棋聖、強さの秘密は「湯水のように使う持ち時間」 「AI泣かせ」上村五段が明かす (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

時間を投じて考えるから強くなるけど、そのせいで終盤時間に追われてミスが出ることもある(第69期王将リーグ最終戦の広瀬八段戦とか)


2020.7.31 08:00

ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影)
ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影)

藤井聡太・新棋聖(18)が、ヒューリック杯棋聖戦で渡辺明二冠(36)を破り、史上最年少で8大タイトルの一つを戴冠した。その圧倒的な強さはどこから来るのか。AERA 2020年8月3日号では、AI超えの妙手が武器のライバルが強さの源泉について語った。

*  *  *
AI時代の将棋にあって、AIがクエスチョンマークをつけている戦型で強豪を倒してきた上村亘五段(33)の将棋には勝負師としてのロマンがある。『天才 藤井聡太』(文藝春秋)の著書(共著)がある中村徹氏はこう言う。

「上村五段が得意にしているのは『後手番の横歩取り』。後手が横歩を取ると将棋AIの評価はガクンと下がるため、この戦法を採用するプロ棋士は現在数名しかいません。しかし上村さんはこの戦法で、それまでプロ入りしてから先手番で無敗だった藤井さんに初めて土をつけたのです」

お互い四段だった2017年9月、銀河戦のブロック戦。スピード感にあふれた88手で、藤井棋聖との初顔合わせを制した上村五段が当時を振り返る。

「振り駒で先手後手を決める対局だったので、先手番も想定し、藤井戦に向けて研究に許される時間を全て充当して臨みました。その甲斐あってか、初手から最後までミスがなく、将棋の神様にも怒られないレベルで勝つことができました」

それ以来の対局となる今年3月、王位戦の挑戦者決定リーグ戦は上村五段の先手番が決まっていた。将棋の戦型は、お互いの得意戦法でもある角換わりで進んだ。

「作戦的にはうまくいって有利に進んでいたと思うのですが、終盤に読んでいない手を指されていつの間にか逆転されてしまった。こちらが途中、踏み込みを欠いたというか、一手緩んだところで差を詰められ、局面が難しくなった。もちろん緩い手を指したつもりはないので、対局後にAIで調べてわかったことですけど」(上村五段)

お互いAIを使って研究を重ねているが、未知の局面にも対応できる地力の強化の大切さを感じた対局でもあった。

上村五段は、棋士には研究中には気づかずに駒を進めるような局面でも、いざ実戦になると指しやすい展開ではないと不安を覚えるようなことが多々あると話す。そして藤井棋聖の強さの秘密がこの「実戦」の時間にあるのではないか、とみる。

「棋聖戦や王位戦の戦いぶりを見て、藤井さんが大事な場面では湯水のように持ち時間を使っているのを皆さんお感じになったと思いますが、これはタイトル戦に限ったことじゃない。藤井さんは普段の対局から徹底的に時間を使い切って自分の糧にしているのです」(上村五段)

序中盤で優勢になれば、テンポも早まって指すのが待ち遠しくなりそうなものだ。しかし。

「形勢のいかんにかかわらず、どの局面でも最善手を探すというスタンスが確立しています。将棋の真理を追求するようなこの姿勢が続く限り、藤井さんはどんどん強くなり周りとの差を広げていくのでは」

こう評価する上村五段は、藤井棋聖がまだ一度も勝ったことがない豊島名人・竜王をこの7月、棋王戦挑戦者決定トーナメントで破った。引き金になったのは「必殺」の後手横歩取り。AIだけでは測れない将棋の魅力が、盤上にはまだ広がっている。今年の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝した将棋ソフト「水匠」を開発した弁護士の杉村達也さん(33)はこう言う。

弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供)
弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供)

「将棋AIは序盤の指し手がまだ甘くて、序盤の評価値が良くても振り返ると実は不利だったというケースがよくあります。渡辺二冠は棋聖戦第3局で90手ぐらいまで想定していたと言われていたので、どうすれば高い精度でそこまで検討できるのか教えていただきたいぐらい。ソフト開発と棋士の研究が一緒にできれば素晴らしいと思います」

世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)
世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)

AI並みのスピードで進化する藤井棋聖の時代が来るのか、渡辺二冠ら最強棋士たちが巻き返すのか、それともAIネイティブ世代の超新星が現れるのか。一つ確かなことは、今、将棋が面白いということだ。(編集部・大平誠)

AERA 2020年8月3日号より抜粋

情報源:藤井聡太棋聖、強さの秘密は「湯水のように使う持ち時間」 「AI泣かせ」上村五段が明かす〈AERA〉(AERA dot.) – Yahoo!ニュースコメント

情報源:藤井聡太棋聖、強さの秘密は「湯水のように使う持ち時間」 「AI泣かせ」上村五段が明かす (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)



記事内で「水匠」として紹介されているスクショは、「ShogiGUI」というソフトですね。「水匠」自体は将棋用のAIなので、このような分かりやすい外観がありません。

ShogiGUI」以外にも、「将棋所」というソフトも有名です。
これらのソフトに、思考エンジンとして将棋AIを設定して、対局や検証に利用します。