2017年7月、藤井聡太四段に対峙する佐々木勇気五段(段位は当時)。(村瀬信也撮影)

天才・藤井聡太の驚異の連勝を止めた男――佐々木勇気七段の苦悩と改進|朝日新聞記者の将棋の日々|村瀬信也(朝日新聞 将棋担当記者) – 幻冬舎plus

ようやくだったよな


村瀬信也(朝日新聞 将棋担当記者)

2017年7月、藤井聡太四段に対峙する佐々木勇気五段(段位は当時)。(村瀬信也撮影)
2017年7月、藤井聡太四段に対峙する佐々木勇気五段(段位は当時)。(村瀬信也撮影)

「昇級は目標だったんですけど、振り返ってみると、厳しかったなと。うれしいというよりは、ホッとした気持ちの方が強いです」

順位戦でB級2組への昇級を果たした感想を問うと、佐々木勇気七段は笑顔を浮かべることなく、そう答えた。

3月3日に行われた、第78期C級1組順位戦の最終戦。8勝1敗の佐々木は東京の将棋会館で、「勝てば昇級」となる一戦に臨んだ。相手の宮田敦史七段は、詰将棋で培った終盤力に定評がある。鋭い攻めを許して窮地に立たされたが、底力を発揮して逆転に成功。午後9時44分、宮田が投了を告げて、佐々木の勝利が決まった。

感想戦の後、3階の記者室でインタビューをお願いした。対局中は非勢を自覚し、ネガティブな気持ちになっていたという。そして、聞いているこちらが驚くほど、率直に真情を語った。

3月3日、順位戦B級2組への昇級を決めた後、インタビューに答える佐々木七段。(村瀬信也撮影)
3月3日、順位戦B級2組への昇級を決めた後、インタビューに答える佐々木七段。(村瀬信也撮影)

「ここしばらく、大きな一番で勝てない時が多かった。今回負けていたら、どうなるかわからなかったですね」

佐々木は、まだ少年の頃から「大器」と目される存在だった。小学4年で小学生名人戦優勝を果たし、高校1年の10月に四段に昇段。16歳1カ月でのプロ入りは、加藤一二三九段らに次いで、当時で史上5番目の年少記録である。その後も、若手棋戦の加古川青流戦で優勝し、棋王戦では挑戦権獲得まであと一歩に迫るなど、トップ棋士への階段を着実に登っていた。

そして2017年7月、将棋界の枠を超えた大きな注目を集めることになる。デビュー戦から29戦無敗だった藤井聡太四段(当時)と竜王戦の決勝トーナメントで対戦し、会心の将棋で藤井の連勝を止めたのだ。

「私たちの世代の意地を見せたいと思った。壁になれて良かった」

報道陣が幾重にも取り囲む中、きっぱりとそう述べた佐々木の姿は多くの人に鮮烈な印象を残した。

近年、「平成ひとケタ」の世代が将棋界に新しい風を吹かせている。主役は、平成2年生まれの豊島将之名人・竜王だが、少し下の平成4~6年度生まれの棋士たちの台頭も著しい。タイトルを獲得した顔ぶれだけでも永瀬拓矢二冠、菅井竜也八段、斎藤慎太郎八段、高見泰地七段がおり、菅井と斎藤は順位戦でA級への昇級も決めた。今後、競争はさらに激しくなるだろう。

平成6年生まれの佐々木は、藤井に勝って「時の人」になったが、その後は波に乗れなかった。2017年度のC級1組順位戦で9勝1敗の成績を残したものの、順位の差で昇級を逃す。翌年度は5勝5敗に終わり、他の棋戦でも成績は低迷した。かつての大器は、いつしかライバルたちを追う立場になっていた。

名人戦へとつながる順位戦は、A級からC級2組まで5つのクラスに分けられている。リーグ形式で行われる戦いを勝ち抜くには、1年を通して安定した成績を残すことが求められる。トーナメントとは違い、黒星を喫しても、めげずに白星を積み重ねることが肝要だ。

私は従来、佐々木に対して勝手に「才気煥発で前向きな棋士」というイメージを抱いていた。しかし、本人によると、「気持ちの切り替えが遅い」面があるという。それは、これまでの順位戦で初黒星を喫した後の連敗が目立ったことと無縁ではないようだ。

「どうすれば勝ち続けられるのか」「どうすれば昇級できるのか」。自分と向き合い、そんな問いを幾度も重ねたであろうことは、想像に難くない。

6期目を迎えた今期のC級1組。佐々木の戦いぶりは、これまでとはひと味違った。研究家の阿部健治郎七段との初戦を、タダの地点に捨てる絶妙手「3七銀」で制すると、2戦目の塚田泰明九段戦、3戦目の北島忠雄七段戦も快勝。3戦とも、夕食休憩前に決着をつける鮮やかな勝利だった。

「研究が行き届いている。これまでの勇気の将棋とは違う」。棋譜を見た兄弟子の勝又清和六段は、そう感じたという。結果的に、開幕3戦でついた勢いが昇級に結びつくことになった。

佐々木は、今期順位戦に向けて、今までとは違う形で意識的に努力を重ねてきたという。昇級を決めた後の前述のインタビューでは、こう明かした。

「今まで自分は終盤型で、作戦の細かい部分に関しては『相手のやることなんて、わからないじゃん』という感じだった。でも今期は、詰みの局面まで研究するつもりで相手の対策を立てた」。そして、その変化の背景にあったのは高い志だ。

「プロを目指す人に『こういう指し方があるんだ』と思ってもらえるような将棋を指したいと思った。定跡を追う側ではなく、作る側になったら楽しいだろうと思った」。モチベーションを持って努力し、それがいい結果を生んで、また次の対局につながる。これまでの苦い経験があったからこそ、そんな好循環を作り出せたのだろう。

佐々木は棋士になって、今年で10年になる。今回の昇級は、上のクラスにいる同世代の棋士たちに近づいただけでなく、「あの棋士」に後れをとらずに済んだという意味でも大きい。「あの棋士」とは、今回一緒にB級2組に上がった、8歳年下の藤井のことである。

藤井について佐々木に聞くと、こんな言葉が返ってきた。

「そろそろ当たりたい。でも、目標は昇級。誰と当たっても、いい将棋が指せるようにしたい」

両者の公式戦での対戦は、あの日以来ない。2戦目を迎えた時、佐々木が見せるのは「意地」なのか、それとも他の「何か」なのか。いずれにせよ、再び多くの人の視線が注がれることは間違いない。

■村瀬信也(朝日新聞 将棋担当記者)

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