棋士の独り言に本音宿る 藤井七段は棋士になる前…:朝日新聞デジタル

へぇ・・・


2019年9月11日16時00分

和服姿で対局に臨む杉本昌隆八段=2019年2月5日午前10時5分、大阪市福島区
和服姿で対局に臨む杉本昌隆八段=2019年2月5日午前10時5分、大阪市福島区

杉本昌隆八段の「棋道愛楽」

棋士の勝負は静寂に包まれた対局室で行われます。対局中は全くの無言と思われがちですが、意外とそうでもありません。考えている最中に独り言をつぶやく棋士はかなり多くいます。

もちろん「いやぁ、困った」など相手に聞かれたくないことは言いませんが、難しい局面でのちょっとしたぼやきや、ため息。「う~ん」「そうか」はよく聞かれます。

自分のリズムのようなもので形勢の良しあしにあまり関係はなく、昔の「口三味線」のように相手を惑わす意図もありません。自分がはっきり有利な時は出ないのも特徴です。

独り言が一番出やすいのは、対戦相手が席を外したとき。会心の一手や、逆に敗戦を覚悟した指し手の後、気持ちを落ち着けるために席を外す棋士は多くいます。こんなときに残された棋士が「うん、そうだよなぁ」「そんな手があるのか」とつぶやく言葉には本音がこもっています。

ちなみに、席を外した側の棋士がトイレなどで「良し」「頑張れ」と自分を鼓舞している光景もみられます。相手が見ていない分、独り言より表現がストレートです。

こちらの指し手を見て「うん、うん」。形勢は別にして、読み筋が合っている証拠。逆に「ええっ?」と反応されたときはドキッとします。自分の手が意表の好手か、大悪手のどちらかだからです。

まるで開戦宣言のような「行く(攻める)しかないか」の独り言も。相手の心の高ぶりが伝わってくるようです。そんなときはこちらも「そろそろ戦いますか」と返事をしたくなるほど。こんなとき、自分が勝負を争う棋士であることを実感するのです。

私が30代のころ。対戦相手のベテラン棋士は1分将棋に追い込まれ、深い前屈姿勢で必死に読み進めています。

「こうやる、こう来る、取る、取る、打ち込む……、うーん分からん。ええい、行けぇ!」

言葉通りに受け取れば、この攻めは全く成算がない突進。これだけ相手の読み筋が全部伝わってきたのは初めてで、こちらもビックリ。思わず、記録係の少年と目が合ったものです。

時に、独り言がこだますることもあります。

大部屋でたくさんの棋士が一斉に対局する名人戦の順位戦。「いやー(難しい)」とつぶやくある棋士。離れたところで考えている棋士が「いやー、か……」とポツリ。それを聞いた他の棋士が「いやいや、ねえ」と反応。これが「棋士の共鳴」現象です。

これはベテラン棋士が多いB級2組でよく見られるとか。ちなみに私は独り言はつぶやきますが、共鳴はしていないようです。

若い人はどうでしょう? 藤井聡太七段が対局中に独り言をつぶやいているのはあまり見かけません。

まだ棋士になる前、研究会で形勢不利な時に「そうか、ひどい」と言っているのは見ましたが、独り言というよりも素直な心の声という気がします。

心の中のつぶやきは、相手には悟られたくないもの。しかし、習慣とは恐ろしいものです。

相手の疑問手を見た直後の心の声。「さすがにこれはどうやっても……(自分が勝ち)」。ハッと気づくと、口に出しかかっていました。独り言の弊害でしょうか。

棋は対話なり。私たちは無言の対局でも、指し手を通じて会話をしているのです。

すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2019年2月に八段。第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。

情報源:棋士の独り言に本音宿る 藤井七段は棋士になる前…:朝日新聞デジタル



7日の記事と微妙に後半が違うようだけど・・・