今年の棋界、2名人語る 囲碁・張栩、将棋・佐藤天彦:朝日新聞デジタル

ほぉ・・・


2019年1月10日16時30分

昨年は藤井聡太七段が次々と記録を塗り替え、羽生善治九段が27年ぶりに無冠になるなど、大きな話題が続いた将棋界。囲碁界も井山裕太五冠がタイトルを二つ失う一方、若手が躍進するなど激動の年だった。2019年はいったいどんな年になるのか。囲碁の張栩(ちょうう)名人(38)と将棋の佐藤天彦(あまひこ)名人(30)が展望を語った。

張栩名人=相場郁朗撮影
張栩名人=相場郁朗撮影

■若手は自信もち、世界戦に 囲碁・張栩(38)

今年の囲碁界も間違いなく井山裕太五冠が軸になるでしょう。昨年は名人失冠のあと王座、天元を防衛し、ダメージを残さず立ち直っている。本当に心が強い。たくましい。

中国、韓国では10、20代がトップを占め、30代は引退モードです。今年30歳の井山さんがトップにいるのは、日本の碁の持ち時間の長さがあるかもしれません。

中韓は長くて3時間。少ない時間でいかに正しく打てるかが勝負です。日本の5時間や2日制の碁は、ヨミや計算以外の経験に裏打ちされた構想力など、感覚的な部分も大きな割合を占めてくる。僕も年を重ね、昔より対応できているように感じます。2日制は中韓にない日本独自の文化。それは大事にしていきたい。

とはいえ、日本も世界タイトルを目指さなくてはいけません。14年前の僕のLG杯優勝が、いまだに日本勢最後の優勝なのは恥ずかしいことです。日本はなめられています。高い志をもって、世界タイトルを取り戻さなくてはいけない。井山さんはそこが一番よくわかっているから、世界戦に注力しているんです。

日本の若手は優秀です。一力(遼八段)、許(家元碁聖)、芝野(虎丸七段)。彼らに続く人もたくさんいて、僕の10代のころに比べてレベルが高い。でも、まだまだだな、と思うところもあります。

本気で世界タイトルを取ると信じている棋士が少ない感じがする。世界戦の代表に推された人が「迷惑をかける」などと話すのを聞くと、がっかりします。中韓の若手は、自分が世界一になると自信をもって言う。自信がなければ勝てるはずがありません。

一力くんに注目しています。非常に責任感が強く、好感が持てる。井山さんとのタイトル戦で何度もはね返されているけど、経験は無駄にならない。戦うたびに強くなれば、いずれ勝てるようになります。

AI(人工知能)の出現で、現代碁も大きく変わりました。難しい局面でも簡単に答えを出してくれますが、AIのマネだけでは、AIのヨミにない手が出る人間同士の対局に対応できません。人間の個性とAIの視点を融合させて、バージョンアップしなければなりません。

僕も名人になって、世界戦に出る機会が増えます。今は楽しみより不安のほうが大きいけど、出る以上は恥ずかしくない対局をお見せしたい。(構成・大出公二)

佐藤天彦名人=村上耕司撮影
佐藤天彦名人=村上耕司撮影

■世代交代、劇的変化あるか 将棋・佐藤天彦(30)

昨年は広瀬章人竜王が羽生善治九段から竜王を奪取し、かなり世代交代が進んだという印象です。特に20代後半から30代前半くらいの僕と同じくらいの年代、広瀬さんや豊島将之二冠、少し上の渡辺明棋王の勢いが大きく、各棋戦で活躍している。プロとしての経験もある程度あり、今のスピード感のある研究にもついて行けている年齢で、バランス的に整っているということでしょうか。

この世代は、子どものときから「羽生世代」の活躍を目の当たりにしてきて、そういう時代が非常に長く続いた。羽生さんからタイトルを取ることを課題として持たされているようなところがありました。

その羽生さんからタイトルを取った菅井竜也七段や中村太地七段からはとても刺激を受けています。特に下の世代はみな個性豊かな人が多く、将棋の内容でも学ぶ面が多い。

以前は上の世代の研究が下に降りてきて、若手はその最強世代の価値観を学んで、乗り越えなければならなかった。自分だけで有力な対抗策を示すのは大変でした。今は将棋ソフト(人工知能)の存在で研究の仕方が多様化しています。

矢倉の右四間飛車や急戦は、以前なら本筋じゃないと思われていたけれど、今はそういう考えがなくなった。若手に限らず、感性に従って自由にやれるようになった。自分の考えが間違っていないか、ソフトで調べられるようになったのが大きいと思います。菅井さんもそうですが、人と違う価値観で勝負したり、自分の考えを推し進めたりする人が増えているようです。

まだまだ40代以上がタイトル戦に出ることはあるとは思いますが、今年も20、30代がタイトル戦の中心になる流れは変わらないような気がします。

また、その予備軍というか、挑戦の機会をうかがう実力者も20代に多くなってきている。劇的な変化が訪れるとしたら、その下の藤井聡太七段でしょう。挑戦の可能性が高い人たちと既に同じ力を持っている。いつタイトル戦に出てもおかしくない。

僕自身はまず名人を防衛したい。それ以外では棋戦優勝、タイトル挑戦につなげていきたい。非常に研究の流れが速いので、そこにしっかりついていくということ。定跡形が中心になるでしょうが、その中でも他の人とはちょっと違う、自分の個性が出る将棋も指していけたらと思います。

(構成・村上耕司)

情報源:今年の棋界、2名人語る 囲碁・張栩、将棋・佐藤天彦:朝日新聞デジタル


へぇ・・・