小さい字の「契約条件」を理解するには博士号が必要だとしたら、ここに法的拘束力はあるのだろうか? | NewSphere

契約書類の文字サイズも規制してほしいね。


Rawpixel.com / Shutterstock.com
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著:Kathy Conklinノッティンガム大学, Associate Professor in Psycholinguistics ), Richard Hydeノッティンガム大学, Associate Professor in Law)

あなたは、自分では気づいていないかも知れないが、法的な合意に絶えず署名している。新しいソフトウエアや旅行保険を購入する時に、いつもクリックしている「契約条件」承認のチェックボックスを思い出して欲しい。読み始めたものの、意味がよく分からないまま承認していないだろうか?

心配はいらない。それはあなただけではない。我々の研究は、いかに保険証券の約款が難解で理解しにくいかを浮き彫りにしている。あまりに難解なため、博士号レベルの学力が必要となるほどだ。

しかし、消費者法では、法的な取り決めは明快であるべきだ、と定めている。つまり、そのような取り決めの文言は、平易で分かりやすい言葉で記述される必要がある。法的な文書が平易な英文で書かれていない場合、それらは法的拘束力を持ち得ないかもしれない。少なくとも、明快でない部分については法的な拘束力を持たせることができないだろう。そうなると、あなたが定期的に署名している契約にもこの原則が適用されることになるのだろうか?もしそうなら、文章が読み易いかどうかをどのように測定するのだろう?

保険証券の約款が分かりやすく記載されているかどうかを調査することになったとき、我々は、それぞれ異なる一連の可読性の測定方法を用いて、7つの保険約款を解析した。1920年代から、文章の難易度を測定する数式は研究されてきた。一般に、これらの測定方法は、文章を構成する単語の難易度と文章の長さに基づいて可読性を評価する。これまで長年にわたり、英語や他の言語について何百もの可読性の測定方法が作られてきた。

◆適切な測定方法を選ぶ
異なる測定方法がそれぞれ異なるやり方で可読性を算出しているため、適切な測定方法の選択は実に複雑である。しかし、おおざっぱに言えば、我々が使用した測定方法はいずれも、1つの文の中にある単語の数と、1つの単語に含まれる音節と文字の数に基づいて可読性を算出している。もし、ある文書の中で複数の音節を含む単語がたくさん使われ、それらの長い単語が多数使われて文章を構成しているような場合は、より少ない音節を含む単語が集められた簡潔で短い文章が構成する文書よりも可読性は乏しい、と判断する。

可読性を算出するオンライン上のツールはたくさんある。同じ可読性を測定しようという目的で作られた様々なツールであっても、フレッシュ・キンケイド式可読性スコアのように、大幅な相違がみられる場合もあり得る。その理由の1つは、ソフトウエアが単語数や音節数を数える方法に相違があることだ。たとえば、ハイ・テク(hi-tech)という単語を1語と数えるか、または2語と数えるのか?各ソフトウエアでこの単語の取り扱いが異なる。また、英語の音節構造は非常に複雑なので、コンピューターにとって音節の数を正確にカウントするのは難しく、その算出方法にも相違がある。

我々はこのようなばらつきに対処するため、どれか1つの測定方法に重きを置くのではなく、5種類の一般的な可読性の測定方法を採用する6つのフリーソフトを使った。その相違に対応するため、我々は、一般的な保険約款の「小さな文字で記載されている」免責条項の可読性について、各ツールが算出した読み易さの評価スコアをまとめ、その平均値を算出した。以下に我々が発見したことを述べる。

異なる保険約款を読んで理解するのに必要な教育年数(Chart: The Conversation, Source: Conklin and Hyde)
異なる保険約款を読んで理解するのに必要な教育年数(Chart: The Conversation, Source: Conklin and Hyde)

我々が調べた保険約款は、いずれもその内容を完全に理解するためには非常に高いレベルの教育を受けていることが必要だと判明した。もっとも読み易く書かれた保険約款の理解には、14年(高校に加え、大学1年間)の教育期間が必要だった。一方、もっとも分かりにくく書かれた約款を読みこなすには、19年(博士号取得レベル)の教育期間が必要だった。これは、公平であるか否かに関わらず、これら約款の少なくともいくらかの部分は、分かりにくさの点における異議申し立てが成立する可能性を示唆している。これは、消費者にとって重要な意味を持つ。

これら共通の測定方法に基づいて導かれる妥当な結論は、これらの約款は明快で平易な英語で記述されていない、ということだろう。しかし、イギリスでは状況が異なる。イギリスでは、可読性のスコアの高低は何ら法的な影響を及ぼさない。満たすべき可読性スコアの基準が存在しないのである。

これは、ヨーロッパの判例法では、契約の文言が明確に内容を伝える文章になっているかどうかを裁判所が検討するよう定めていることが理由だ。可読性スコアは、文言が難しくて一般の消費者にはその内容が理解されない証拠にもなりうるが、決定的な要因にはならない。スコアが低く、読み易いと判定された契約でも、実はその内容が理解しづらい場合もあり得る。したがって、裁判所は契約のあらゆる要素について詳しく評価を実施し、その内容が効果的に読み手に伝わりやすくなっているか否かを考察するよう求める。

しかし、アメリカでは、契約の文言を評価するために、可読性スコアが用いられる傾向がある。たとえば、テキサス州では、消費者向けの銀行約款は、マイクロソフト・ワードが計算するフレッシュ・キンケイド式可読性スコアが所定の基準値を満たさなければならない、としている。同様に、サウスカロライナ州では、ローン契約の約款は、フレッシュ・キンケイド式可読性スコアが7グレードを上回ってはいけない、とされている。

医療保険制度改革のもとで、健康保険の適用範囲が拡大されるのに伴い、アメリカの各州はこれら保険約款の読み易さをますます重視しており、契約内容の明快さを評価するためのツールとしてしばしば可読性スコアを利用している。確かに、我々が調査した保険約款は、これらの法律で定めている基準値を満たさないと考えられる。

しかし、アメリカでは可読性スコアの利用が増える傾向にある一方で、イギリスではこれらのスコアの果たす役割は依然、不透明なままだ。大蔵大臣は2017年の予算案に、混乱を招きかねないぎっしりと小さい字で書かれた文章に対する断固たる措置を発表した。可読性スコアがこの措置の施行に一役買うかもしれない。

その一方で、企業は契約の自己評価に可読性スコアを使用することで、スコアが高すぎる、つまり、文章が分かり難い場合はもう一度文言を練り直すことができる。裁判所や規制当局は、契約を審査し、平均的な消費者にとって理解し難い契約を特定し、確実に適切な変更が実施されるよう促すことが可能になる。

言うまでもなく、内容の不明瞭な契約が可読性スコアを不正に操作しないよう警戒することも欠かせない。しかし、可読性スコアを適切に利用し、消費者が結ぼうとしている契約の内容を分かり易くすることで、消費者に真の利益をもたらすことができるようになる。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

情報源:小さい字の「契約条件」を理解するには博士号が必要だとしたら、ここに法的拘束力はあるのだろうか? | NewSphere


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