将棋:師匠の杉本昌隆七段が語る藤井聡太六段 「対局棋士、勝たれすぎ」 – 毎日新聞

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【第68期王将戦1次予選2回戦】感想戦で対局を振り返る藤井聡太六段(左)と杉本昌隆七段=大阪市福島区で2018年3月8日、貝塚太一撮影
【第68期王将戦1次予選2回戦】感想戦で対局を振り返る藤井聡太六段(左)と杉本昌隆七段=大阪市福島区で2018年3月8日、貝塚太一撮影

将棋の史上最年少プロ棋士で、愛知県瀬戸市出身の藤井聡太六段(15)は、今最も注目される10代の一人だ。東海地方の学生記者は師匠の杉本昌隆七段にインタビューし、藤井六段の強さの理由や「プロ」の生き方を聞いた。

東海地方の学生記者がインタビュー

インタビューに答える将棋の杉本昌隆七段=名古屋市北区で、兵藤公治撮影
インタビューに答える将棋の杉本昌隆七段=名古屋市北区で、兵藤公治撮影

学生記者 3月8日にあった師弟対決の感想と、メディアから非常に注目された感想を教えてください。

杉本七段 非常に多くのメディアで報道していただきまして、注目される勝負というのはやはり私たちにとってやりがい、指しがいがあるものですから棋士冥利に尽きる対局でした。そして、藤井六段という自分の弟子が成長してくれて、公式戦で対局できるというのも感慨深いものがありました。同時に自分は現役の棋士。勝負にこだわりますから、悔しさしかないですね。でも、弟子だから悔しいのではなくて、誰が相手でも全力で指すのが私たちの仕事ですから、純粋に負けたことに対する悔しさと自分の作戦が成功しなかった無念さ、研究が足りなかったという反省はありました。

Q 個人的な興味ですが千日手はプロの世界では珍しいのでは?

A インターネットの検索ワードで千日手が上がったと聞いて、相当マニアックな言葉だと(笑い)。将棋をやる人じゃないと知らない言葉だから、珍しいです。ただ、あれは両者手が出せなくてにらみ合いが続いて打開ができないからやり直そうということ。相手との波長が合わないと千日手にならない。例えば自分が打開できないと思っていても、相手が打開する気満々という時がある。藤井六段との対局ではお互いぴったり一致したんですよね、この将棋は千日手にしようという思惑が。

藤井六段の強さの理由は「切り替えの早さ」

報道陣から受け取った29連勝を表す将棋盤を手に笑顔を見せる藤井聡太四段(当時。現在は六段)=佐々木順一撮影
報道陣から受け取った29連勝を表す将棋盤を手に笑顔を見せる藤井聡太四段(当時。現在は六段)=佐々木順一撮影

Q 師匠からみて藤井さんの強さの理由は。

A 高い技術を持っているのは間違いない。非常に負けず嫌いです。子どもの頃は負けると将棋盤を抱きかかえるようにして号泣していた。にもかかわらず切り替えが早い。いつまでも引きずらない。私たちの世界は勝ち負けが常にあるので勝たなければいけないが、逆に言うと負けを受け入れるんですよね。絶対どちらか負ける世界ですから。負けを素直に受け入れられる性格というのも必要であって、藤井六段は負けん気の強さと切り替えの早さを持っていると思いました。

Q 弟子が自分より強いのはどういう感じ?

A 全然何とも思わない(笑い)。勘違いしている人が多いんですけど、今彼が六段ですけど七段に上がったら追いつかれますね、みたいなことをたまに言われます。だからどうなんですかと思う。棋士の仕事って日常的に勝負を争うので、そこに偶然はないし、年齢とか関係ない。若くても強い人は強い。別に弟子だからどうこうという感情は入らない。ああ頑張っているな、というのは師匠としてはありますけど、悔しいとか師匠の威厳が、というのはかけらもないですね。

Q 藤井六段の現在の快進撃についてどう見ていますか。

A 現役棋士の立場からすると、他の棋士がちょっと情けないんじゃないかね。いくら何でも勝たれすぎだし、私も彼に1勝献上をしているので、あんまり大きなことは言えないんですけども(笑い)、もうちょっと頑張らなければいけないと思います。師匠として見ると、デビューしてまだ1年半で、これだけ安定した成績を残しているのは、本当に努力しているんだなと思います。調子がいい時に勝つのはそれほど難しくないですけど、継続するのは難しい。デビューしてからずっと好調を維持し続けている。もしかしたら好調じゃなくて、あれが彼の普通の姿なのかもしれないと思わせるほどの安定ぶりです。1年間ずっといい状態を維持したからこその4冠であって、勢いの記録ではないと証明しましたね。

「藤井フィーバー」 周囲に恩恵

Q 藤井フィーバーという言葉もあります。

A そうですね、藤井フィーバーによって……なんかパチンコみたい(笑い)。周りが非常に恩恵を受けました。まずは将棋連盟。将棋界が非常に注目されましたし、いろいろなグッズも売れていますよね。将棋そのものの認知度が非常に上がりました。今日も、藤井フィーバーがなかったらみんな、ここにいないんじゃないかな(笑い)。彼はまだダイヤの原石みたいなものですね。これからもっと光る。周りにいる人も一緒に輝くんですね。例えば、将棋連盟もそうだし、彼が行くラーメン屋さんがすっかり人気店になりました。私もいろいろな取材を受ける機会も増えました。そして、藤井に負けた対局相手が有名になる。そんな話聞いたことがない。勝って話題になるならいいんですけど、対局するだけで有名になれる。半面、本人が恩恵を受けていないんですね。本人はおそらく静かに将棋を指したいだけじゃないかと。

Q 杉本先生が表に出ることで、藤井六段を守っているようにも見えます。

A ゆくゆくは本人が答えるべきだと思うがテレビや新聞、ここだけ受ける、というわけにはいかない。彼は自分の意思だけで選べない立場です。全部受けると時間がいくらあっても足りないので、今後の藤井六段はどうなっていくのかなと心配しますね。半面、勝負飯とか、ああいうことを取り上げてもらうことも、そこから興味持ってもらうこともあるので、一つの普及だからいいかなと思いますけど。

Q どうやってプロ棋士としてのモチベーションを保ち続けているのですか。

A よく将棋の世界では、良い時は将棋の勉強をしなければいけないけど、逆にスランプの時ほど気分転換をした方がいいと言われるんですね。苦しい時にこそ遊ぶ、違うことをやってみる、いろいろ試してみるんですね。将棋って自分の経験に基づくものも多いので、得意なものに固執しがちなんですけど、あえて苦しい時は普段自分のやってないものを試してみたり、新しい形に挑戦する。気分転換もリフレッシュが必要だと思っています。そして今に慣れないこと、今の状態を当たり前と思わないことですね。慣れてしまうと、一日一日が薄まっていくので、常に新しい気持ちを持つことは大事です。自分と違う感性を持つ若い人たちと話したり接したりすることが、自分が新しいものを取り入れようと思えるようになりますので、これがモチベーションの保ち方ですね。弟子をとることも、もしかしたらそこにつながっていくのかもしれませんね。

「棋士一本に絞ると……」 進学時にアドバイス

Q 最初に弟子をとったのはいつで、それはどんな心境でしたか。

A 31歳。上だけを見ている年齢でもありましたし、誰かを育成しようという発想などなかったですね。現役だからこそ弟子をとって、弟子も強くなってほしいけど、自分も弟子に負けないように強くなりたいという気持ちがモチベーションにもつながりますし、そう思った時に弟子をとってもいいかなと思いました。

Q 藤井六段の高校進学について、先生が経験を踏まえて何かアドバイスをしたことは?

学生記者の前で将棋の駒を動かす杉本昌隆七段(左)=名古屋市北区で、兵藤公治撮影
学生記者の前で将棋の駒を動かす杉本昌隆七段(左)=名古屋市北区で、兵藤公治撮影

A ほとんどないんですよね。悩んでいたこともあったみたいですし、実際、彼にはプロ棋士という肩書がありましたから、高校卒業の資格は必要ないわけですね。ただ進学した場合の生活は、大体想像がついたんですね。中高一貫で同じ学校に行って、同じ日常を送る。進学しなかった場合は学生の肩書がなくなり、棋士一本に絞るということ。その時にプロ棋士藤井聡太がやりたいことと、現実には必ず何か違いがあるはずで、本人が思っているようになるかどうかは分からない。将棋連盟が、学生じゃない藤井聡太に、何を求めているかというのは大体想像はつきました。彼がメディアに出て、広告塔のようになってくれれば、宣伝効果は計り知れない。学生なら断ることはできても、棋士一本になった場合は、連盟という組織の一員として、やらなければならないことが増えてくる。そういうことを話した。それが彼の決断を左右したかは分からないけれど。それは多分、進学を決める前の彼には分らなかったでしょうから、大人として説明しました。

Q 好きなことを仕事にしているというのはどんな感覚なんでしょうか。

A 私はプロ棋士になった時、好きなことを仕事にしていない人がいるというのが分からなかった。皆さんも、将来は好きな道に進みたいと思うはずですが、世の中そうもいかないと思いますので、自分はこれをやりたかったけど、こっちの部署に回されたとか。一つの会社でもいろいろありますよね。私たちは自分の好きな将棋というのが仕事になっているので、ある意味子供の頃の気持ち、好きだった趣味をそのまま仕事にできているわけで、他の人と比べようがないかもしれないけど、非常に幸せだなと改めて思いますね。

「人生の師匠」の見つけ方

Q 将棋の道に限らず、どのようにして人生の師匠を見つけたらいいと思いますか?

A 見つけようと思って見つけられるものではないですけどね、これは縁のものだと思います。結局は人間関係だと思う。いい上司とかいい師匠ってないと思います。例えば自分はあんまり考えを押し付けるのは好きではないです。でも、どんどん引っ張ってほしいという弟子には、私はいい師匠ではないです。いい師匠を見つけるのではなく、その人のいいところを見つけるべきだと思います。タイプでいうと、あまり上から目線でない人。先輩面しない人。個性を尊重してくれる人。あとは前向きな失敗を評価してくれるような人が指導者としていいのかなと思います。

Q 棋士は長時間対局に集中します。

A テレビで見るとずっと集中しているように見えるかもしれませんけど、抜いている時もあるんですよね。ずっと集中していると、どこかでバテてしまうことも多いです。時に外の風景を見てみたり。余裕ですねと言われているんですけども、よくある光景で。ちょっと違う将棋を見たりして、軽い気分転換ですね。メリハリをつけることじゃないですか。集中しなければいけない局面とそうでもない局面がありますので、ちょっと緩める気持ちも時には必要かなと思います。どこに自分が集中したいか。一局の将棋で言うと、序盤から全力の人もいますね。私はそのタイプ。終盤エネルギー切れするんですけども(笑い)。最後の方に余力を残しておく人もいます。マラソンに似ているかも。正解はないです。

杉本昌隆七段略歴

すぎもと・まさたか 1968年名古屋市出身。将棋を始めたのは小学2年。80年、11歳で奨励会入会。90年にプロ棋士に。95年五段、2000年六段、06年から七段。振り飛車を得意とする。

学生記者のインタビューに答える将棋の杉本昌隆七段(右)=名古屋市北区で、兵藤公治撮影
学生記者のインタビューに答える将棋の杉本昌隆七段(右)=名古屋市北区で、兵藤公治撮影

情報源:将棋:師匠の杉本昌隆七段が語る藤井聡太六段 「対局棋士、勝たれすぎ」 – 毎日新聞


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