なぜラーメン二郎は“パクリ店”を許すのか 追従者を蹴落とさない精神 – SankeiBiz(サンケイビズ)

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※写真はイメージです(Getty Images)
※写真はイメージです(Getty Images)

東京・港区に本店を構える「ラーメン二郎」は、多数のファンを抱える人気ブランドだ。顧客から応援されるブランドはどこが違うのか。いずれも経営学者の新井範子氏と山川悟氏は共著『応援される会社』(光文社新書)で同店を取り上げ、「類似店舗を許容する姿勢が、本店の価値を高めている」として、5つの類型のうち「崇拝型応援タイプ」に分類している–。

※本稿は、新井範子・山川悟『応援される会社』(光文社新書)の第3章「応援されるブランドの類型と特徴」を再編集したものです。

小さな入口から奥深い世界を垣間見せる

東京都港区三田に本店を構える「ラーメン二郎」。近隣の慶應の学生たちの応援が店を支えたというエピソードも残っている。とにかく量が半端なく、「小」を頼んでも他店の大盛りを遥かに凌駕するラーメンがドカンと出てくる。食べた直後は必ず後悔するが、しばらくすると無性に食べたくなる、いわゆる病みつき系のこってり味であり、二郎に何度も通う人たちを「ジロリアン」と呼ぶなど、カルト的なファンが存在することでも有名だ。

一杯平らげるにはそれなりの気合と体力が必要なため、二郎での食事体験を「修行」と捉える人も多い。「もはやラーメンではない」「二郎という別の食べ物だ」と言い放つ人さえもいる。独自の味とスタイルを築いた創業者・山田拓美代表を慕った、インスパイア系と呼ばれる類似店舗も増加している。

新規店舗がオープンしても積極的に宣伝はしない、駅から遠い、店員は不愛想、常連が多くて肩身が狭い、メニューは少ない、注文方法や頼み方に独自のルールがある、もちろんヘルシー志向などとは無縁、などといった特徴があり、顧客ニーズに適合しようなどといった気配は微塵もない。

20~40代男性の5人に1人がジロリアン

しかしそれでも客足は絶えず、常に店内は満席、外には長蛇の列ができている。ちなみに自らもジロリアンだという牧田幸裕氏(信州大学)のフェルミ推定によると、ジロリアンは全国で105万人。これは首都圏20~40代男性の5人に1人に相当するという。

「お客様満足」を題目とする企業がこれだけ増えた今日、二郎の顧客を突き放すような姿勢は、ある意味爽快でもある。豚のゲンコツを煮出したフルボディのスープ、チャーシューは直方体、盛られた野菜はもはや円錐状態と、「これでいいのだ」という自信に満ち溢れた姿形を見れば、これがタダものでないことくらい誰にでもわかる。店側が一つの信念からつくり上げたモノを真剣にぶつけられたと感じた客側も、それに真剣に呼応せざるを得ない。この得体のしれない存在感と奥深さに畏敬の念を感じつつも、額に汗してそのラーメンを制覇することに、ジロリアンたちは喜びや生き甲斐さえ見出すのであろう。

採算を度外視しても最高級品を市場投入する

崇拝型のブランドにおいては、求道的な消費スタイルがより強く発揮される。むろん情報機器にしてもジャムにしてもラーメンにしても、誰もが簡単に楽しめる消費財にすぎない。しかしそれぞれの世界は奥深く、真の楽しみを知るためには、それなりの消費経験や知識が必要となる。その奥深さを小さな入口から垣間見せることが、崇拝型ブランドへのルートといえよう。

最近、マス向け消費財のメーカーにおいて、採算を度外視しても最高級品を市場投入するケースが相次いでいる。クリネックスティシューの「至高」「極」「羽衣」(日本製紙クレシア)、カルビー「かっぱえびせん匠海」、スターバックス「パナマ アウロマール ゲイシャ」、伊藤園「お~いお茶 玉露」などが代表例である。言葉で主張するのではなく、実際につくり上げた最高の商品で、自社の持つ技術の奥深さや、本気度、すごみを感じさせようとする狙いといえよう。コモディティ化が懸念される商品ジャンルにおいては、こうした形でブランド至高体験を提供していくのも、一つの選択肢である。

内なる顧客の声を信じる

崇拝型ブランドが決して顧客の気持ちを考慮しない、ということではない。信用するのは市場調査のデータではなく、「内なる消費者」の声である。これが独特の嗅覚となり、強烈な個性と完成度を持った商品を生み出していく。一方、消費者サンプリング調査に基づいてニーズを測定すると、往々にして当たり障りのない無難な選択に陥りやすい。

「ブリュードッグ」(スコットランド)は2007年、ワットとディッキーという2人のビールオタクによって設立されたマイクロブリュワリーである。立ち上げた理由は「心から飲みたいと思えるものが世の中になかった」から。ウイスキー樽熟成のスタウト「パラドックス」を皮切りに幾多のビアコンペで賞を獲得して業界を席巻、創業8年足らずで売上70億円を達成した。

プロモーションに関しても、アルコール度数55%のビールをリスの剥製のパッケージで発売、大通りを戦車で駆け抜けて新製品を告知、英国議会議事堂に創業者2人の裸の影を映し出す、など破天荒なものばかり。眉をひそめる人もいるが、彼らの「パンク精神」に対しては心酔するファンも多い。

ワットは「ターゲット市場なんて言葉は無視しよう」と提唱する。なぜならその事業のことを来る日も来る日も考え続けてきた経営者自身が、顧客とは誰かを一番知っているからであり、「あなた(著者注:経営者)の魂にはブランドのDNAが焼き付いている」からだとしている。

経営者や社員が「オタク」ともいえるユーザー

日本のオートキャンプ市場を再確立した「スノーピーク」(新潟県三条市)の山井太社長も、自分が長期間使いたい、満足が得られるキャンプ用品を製造し、品質に見合った価格についてきてくれる顧客のみにそれらを提供する、というスタンスを持っている。山井氏が入社した1986年当時、テントの価格相場を無視していきなり16万8000円のハイエンド商品を市場導入、社内の猛反対を尻目に、製造した商品100張あまりをすべて売り切ってしまう。ヘビーユーザーが年50回×5年間は使えるテント、つまり自分が使いたい商品でなければ売ることはできない、という意志を貫き通したこの体験が、現在のスノーピークを形づくっているという。

同社の理念“The Snow Peak Way”に「自らもユーザーであるという立場で考え、お互いが感動できるモノやサービスを提供します」とあるが、社員を採用する条件の一つはユーザー・スキルであるという。そして「私自身がユーザーの代表だと思っている」と述べる山井社長こそ、年平均40~50日はキャンプに出掛ける最先端ユーザーであり、商品に対して最もうるさい消費者なのである。

経営者や社員が「オタク」ともいえるユーザーであり、消費者に強い影響を与える存在であることも、崇拝型の一つの特徴であろう。近年、身近なカリスマや師とみなす人への尊敬から生じる「リスペクト消費」が生じており、「何を」買うか以上に、「誰がつくったものを」「誰と同じものを」「誰が薦めているものを」「誰から」買うかに重要な意味が見出されてきている。モノへのニーズというよりも、人へのニーズと捉えるべきだろう。

追従者を育成する勇気を持てるか

ここまで述べてきたのは、創業者や経営トップのカリスマ性に大きく依存するタイプのブランドであり、ニッチな市場や関与性(こだわり)の高い商品分野においては成立しやすい。当然ながら、高価格帯やハイエンド製品が売れていく基盤も出来上がる。

カリスマ経営者というと、SNSで多大なフォロワーを有する、マスメディアからの取材も多い、社内ではその存在感が突出している、といった様相を呈する。こうしたリーダーが心身共に元気なうちは問題がなかろう。しかし近年でも、セブン&アイ、スズキ、吉野家など、カリスマ経営者退任後の経営不安がささやかれた例は絶えることがない。崇拝型は、カリスマが引退や死去により、第一線を退いた時点で顧客が逃げていくというリスクと隣り合わせにあることも肝に銘じたい。

そこで考えておくべきなのは、「追随する者を育てる」勇気である。世界初の明太子製造に成功した、「ふくや」(福岡市)は、あえて製造特許や商標を取得せず、安くて美味しいものがたくさん世の中に出回るようにと、仕入れ業者に製造技術を伝授した。1716年創業の老舗「中川政七商店」(奈良市)では、自ら工芸品のブランドを開発・販売するだけでなく、伝統工芸品メーカーのコンサルティングを利益度外視で行っている。

なぜ二郎は「インスパイア店」を許容するのか

ラーメン二郎においては、支店、本店修行を経たのれん分け制度もあるが、インスパイア店、リスペクト店と呼ばれる類似店舗への許容姿勢が特徴である。結果的にそれらが、二郎ファンの間口を広げることにつながっている。

追随者をライバルとみなして蹴落とすのではなく、同志として受け入れたり、弟子として育てていったりすることで、自らを核とする一つの市場領域が形成される。一緒に一つの業界をつくるという意識だ。これにより、本家本元のブランドとしての価値がより高まっていくのはいうまでもない。また本家としても、後進として追い上げる者たちとの間で繰り広げられる切磋琢磨によって、さらなる高みを目指していく熱い気持ちが維持されるかもしれない。先駆者であり破壊者である一面、育成者としても振る舞うことで、崇拝型のビジネスはより強固な存在になっていく。

新井 範子(あらい・のりこ)

上智大学経済学部経営学科教授。インターネットやアプリを使ったデジタルなマーケティング、デジタル空間での消費者行動やブランディッド・エンターテインメントを中心に研究をしている。

山川 悟(やまかわ・さとる)

東京富士大学経営学部教授。広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わった。専門はマーケティング論、創造性開発(プランニング、事業モデル開発)、コンテンツビジネス論。

(上智大学経済学部経営学科教授 新井 範子、東京富士大学経営学部教授 山川 悟)

情報源:なぜラーメン二郎は“パクリ店”を許すのか 追従者を蹴落とさない精神 (1/5ページ) – SankeiBiz(サンケイビズ)


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