こいつは記者だ!頭に角材 報道に敵意、世界で噴き出す:朝日新聞デジタル

記者や編集の意見や感情をを抜きにした、事実のみを伝えればいいんだよ。


報道への敵意が、世界各地であらわになっている。その根に何があるのか。2人が殺傷された朝日新聞阪神支局襲撃事件から30年になるのを前に、記者が攻撃されたギリシャやフィリピン、メキシコ、香港で取材した。

■ギリシャ、黒覆面の男が…

昨年2月、ギリシャの首都アテネ。中心地の大通りを、年金カットに抗議する人たちが進んでいく。取材していたラジオ局「アテネ9・84」の記者、ディミトリス・ペロスさん(40)は列にいた黒覆面の男に、記者かどうか尋ねられた。

「そうだ」と答えると、「こいつはジャーナリストだ!」と指をさされ、突然角材で頭を殴られた。半日後、目を覚ました病院で医師から告げられた。「打ちどころが悪ければ、命を落としていた」

ギリシャでは2009年、政府による巨額の財政赤字隠しが発覚。それが引き金になり、経済危機が起きた。政府は欧州連合(EU)などの求めに応じて、歳出削減や年金カットを実行。国民の生活は苦しくなり、失業率も上がった。以降、政府に抗議するデモが頻発するようになった。

長年放漫な財政を続け、危機を招いた政治家と並び、批判の的になったのはジャーナリストだった。「ジャーナリストが怠慢で真実を伝えなかったから、危機に陥ったと国民は考えている」。ペロスさんは自身への暴行もメディアへの不信感の高まりゆえに起きたと思っている。

その不信感を裏付けるデータがある。ギリシャの大学などが昨年実施した調査で「ジャーナリストを信頼している」と答えた人はわずか11%だったという。

事件取材を担当しているペロスさんは、記者を狙った事件をしばしば見聞きする。有名なテレビキャスターが飲食店で殴られた。ボディーガードを付ける記者が増えた。ネットのサイトに名指しで「容赦しない」「覚えておけ」と書き込まれている――そんな話だ。

「国民の怒りはわかる。メディアは本当の経済状態を知らせていなかった。でもそれは誰も都合の悪い話を聞きたくなかったからだ」

経済危機は、ジャーナリストから職も奪った。

国際ジャーナリスト連盟に加盟する「アテネ日刊紙ジャーナリスト組合」代表のスタマティス・ニコロプロスさん(61)によると、経済危機後、新聞社やテレビ局など80以上のメディアが倒産。記者の失業率は40%にのぼり、給料も大幅に減ったという。

危機が深まる中、緊縮財政に反対する急進的な左派政党が躍進、15年に政権の座に着いた。社会は新体制を支持するかどうかで分断され、メディアの論調も分かれるようになった。ニコロプロスさんは「仕事を失いたくないため、会社に都合の良い記事を書かざるをえない傾向にある」と指摘する。「しかし、国民が求めているのは現実に対する真実の答えだ。我々はそれを伝えないといけない」

解雇されたジャーナリストたちが集まり、新たな新聞社を設立するなど新しい動きも出てきている。「変化は苦しいときにこそ生まれる。圧力に屈しないため、できることはやる。その覚悟だ」

■フィリピン、ネットで記者中傷

「あなたの顔写真が、まるで容疑者みたいにネットにさらされているよ」

フィリピンの首都マニラで政治を担当する50代の男性記者は昨年、友人から電話で知らされた。過激な発言で知られるドゥテルテ大統領のコメントを、批判的に報じた直後だった。

フィリピンで政治や事件を書く記者にとって脅迫や嫌がらせは珍しくない。この男性記者もかつて、警察の疑惑を取材中に不審な車につけまわされたり、反政府組織のメンバーに「お前の自宅は知っている」と警告されたりした。

ドゥテルテ政権下で目立つのが支持者によるネットでの攻撃だ。

「無責任な記者を処罰せよ」。男性記者はそんなメッセージとともに顔写真をさらされた。フェイスブックが何者かに乗っ取られ、自分の写真が「ドゥテルテは私たちの大統領だ」というロゴに替えられた。

米国のNPOジャーナリスト保護委員会(本部・ニューヨーク)の統計によると、1992年以来、フィリピンで殺害された記者は78人。イラク(179人)、シリア(108人)に次いで多い。

「多くの場合、殺害の数日前に脅迫があった」。記者の全国組織「フィリピンジャーナリスト連合」(NUJP)前会長のロウィナ・パラアンさん(52)は言う。手口はバイクの2人組による銃撃が多く、5千円や1万円のはした金で殺しを請け負う者がいるという。

大統領の過激な発言はメディアにも向けられ、「それが記者は脅しても構わないというメッセージになっている」とパラアンさんは危惧する。圧倒的な人気を誇るドゥテルテ大統領に対し、NUJPは臆せず抗議声明などを発信してきた。

だが、大統領支持者たちの「国がやることを支持できないなら出て行け」といったメッセージがNUJPにも向けられ、昨年末にはウェブサイトがサイバー攻撃で使えなくなった。

人口1億人余のうち、フェイスブック利用者数は半分超の約5900万人という。パラアンさんは「ソーシャルメディアでは自分が求める考えだけに囲まれがちで、狂信者が生まれやすい。大統領はメディアを攻撃することで国民の感情をたきつける。とても危険なことだ」と話す。

ただ、フィリピンの記者が萎縮しているとは思わないという。

「大統領に批判された記者は、それを誇りにしている。それが彼らの仕事だから」

■メキシコ、マフィアが報道監視

「銃を撃ち合う音が20分以上聞こえる。近寄るな」「車の窓を割られた。気をつけて」。メキシコ北部のタマウリパス州。発砲や火事、不審者などの情報が情報投稿サイトにリアルタイムに書き込まれる。

地元新聞社「オラセロ」のエクトル・ヒメネス編集長(53)によると、10年ほど前から地元マフィア側が都合の悪い報道をした記者を脅したり殺したりするようになった。そのため麻薬密売や殺人、誘拐などの報道が難しくなった。そのころ地元住民らが各地でサイトを開設し始めたという。

だが、マフィアはネットへの投稿すら、許さない。

ジャーナリスト保護委員会によると、2011年、タマウリパス州のヌエボラレド市周辺で、サイトに投稿していたという新聞社編集長の女性(当時39)が首のない遺体で見つかった。

そばに置かれたメッセージボードに「投稿のせいでこうなった」と書かれ、末尾にマフィアを示す印もあった。

ヒメネス編集長は「女性は事件記事が書けなくなり、情報発信の場を求めて書き込んでいたのだろう」と言う。

記者だけでなく市民らも狙われた。複数の報道によると、11年に同市で男女2人の遺体が歩道橋からつるされた。ここにも脅迫するメモがあった。「ネットで告げ口をする者はみなこうなりうる。監視している」。こうした被害は後を絶たない。

組織犯罪に詳しいメキシコ大学院大のセルヒオ・アグアヨ教授(69)は「それでも情報投稿サイトは増え、各地にある。情報は人々が生きる上で不可欠なもの。いくら暴力を振りかざしても、伝えることを止められない」と指摘する。

■香港、刃物で襲撃

香港紙「明報」の元編集長の劉進図さん(52)は2014年2月26日に襲撃された瞬間を今も鮮明に覚えている。出勤途中に車から降り、刃物で切りつけられた。「内臓が見えた」。手術前、看護師の言葉が聞こえた。傷は足と背中の計6カ所。輸血量は4千ccに及んだ。

約半月後、暴力団関係者2人が逮捕された。裁判で10万香港ドル(約140万円)超の報酬を受け取ったことを明らかにしたが、動機や黒幕については証言を拒否。劉さんは編集長時代に調査報道を手がけた際の報復とみるが、真相はわからない。

15年夏、職場復帰までをまとめた本を出版した。後遺症で足を引きずりながら歩くが、表紙には事件現場に立つ自分の写真を選んだ。「もう一回、立ち上がる姿をみせたかった。私は暴力には屈しない」

香港の言論の自由を脅かすのは、記者への暴力だけではない。習近平(シーチンピン)指導部が中国本土で締めつけを強めるにつれ、香港への圧力も大きくなっている。

香港では15年以降、共産党の批判本などを扱っていた書店関係者5人が次々に失踪。後に中国当局による拘束が判明した。20年前に英国から返還された香港は言論の自由が保障されており、中国側による「言論封殺」と受け止められた。

香港記者協会の麦燕庭さん(56)は返還後、言論状況はずっと後退してきたという。だが、「言論の自由を守るという決心さえ持ち続ければ困難は解決できるはずだ」と話す。

情報源: こいつは記者だ!頭に角材 報道に敵意、世界で噴き出す:朝日新聞デジタル

へんに、脚色したり意見を入れたりする必要はない。