琵琶湖の名所から大量のハスが消えた… さまざまな憶測、一体何が起きたのか:イザ!

なぜ・・・

【関西の議論】

国内最大級のハス群生地として知られる滋賀県草津市の琵琶湖岸にある烏丸(からすま)半島。例年、夏のシーズンにはハスの葉が湖面を埋め尽くし大勢の見物客でにぎわうが、今年はそのハスの名所からハスが消えてしまった。突然変異か、環境の変化が原因なのか…。

観光面での影響も大きいとあって県などが詳しく調査したところ、意外な事実が分かった。長年にわたって群生したハス自身が成育に適さない条件を作り出していたのだ。ハスがハスを消す-。一体何が起きているのか。(北野裕子)

(上)昨年6月下旬の琵琶湖・烏丸半島のハス群生地の様子。ハスの葉で湖面が覆われている。(下)今年6月下旬の烏丸半島の同じ場所。ハスの葉がまったく見られない=滋賀県草津市(いずれも同市提供)

甲子園球場約10倍のハス消失

ハス群生地は、本来なら6月下旬には一面が緑色の葉に覆われ、ピンク色の花が咲き始める。広さは約13ヘクタール、甲子園球場のグラウンドの約10倍だ。ところが、今年は水面にほとんど葉が出てこず、草津市公園緑地課は「20年以上観察しているが、経験したことがない」と話す。

観光資源であるハスの消失が、地元に与えた影響は大きかった。開花時期の7、8月に熱気球に乗り、空からハスを楽しむ観光フライトの搭乗者数は、昨年度が1日平均266人だったのに対し、今年は129人。小型のモーターボートに乗ってハスの中を進むハスクルージングは、昨シーズンまで千人を超す利用があった。今シーズンも千人以上の予約があったが、キャンセルが続出。最終的に40人程度まで激減した。

カメによる食害だ、病気にかかったのかも、いや土壌環境が悪化したに違いない-。突如消えたハスをめぐっては、研究者の間でさまざまな推測が飛び交った。

一体何が原因なのか。県や市は7月、水中に潜り、ハスの葉や地下茎のサンプルを採取。9月には外部機関にも分析を依頼し、調査を進めてきた。そして10月中旬、第2回関係者会議で意外な調査結果が明らかにされた。

湖底が酸欠状態に

原因は土壌環境の悪化。しかも、ハス自身が成長の過程で生育環境を悪化させていた。

烏丸半島周辺は、約40年前からハスの生育が拡大したとみられるが、40年以上に渡って湖底にハスの葉や茎が積み重なり、土壌内が酸欠になっていたのだ。今回判明した湖底の土壌の酸欠状況は、陸上の植物が生育できないほどのレベルだという。

一方、推測されていた病気やカメなどの食害の可能性はほとんどないとされた。また、気象条件や水質についても、例年と比べて特異な状況はなかったと確認された。

調査に関わった滋賀県立大の小林圭介名誉教授は「長年、ハスが生育面積を拡大していく中で、有機物が湖底に堆積して嫌気的状態となり、過密な生育状況も重なって、一気に衰退したのでは」と話す。

ハスにとってみれば、生育面積を自ら拡大する中で、逆に自身の生育に適さない環境へ土壌環境を変えてしまったというわけだ。

ハスが消えたことを受け、湖底の状態などを調査する県職員ら=今年7月

対策に積極的になれないワケ

ようやく解明された原因。だが、関係者の表情は晴れない。対策を実行するには湖底のハス同様、問題が積み重なっているからだ。

県や市は環境改善に向け、湖底をさらうことや耕運作業を検討しているが、小林名誉教授は「湖の環境は複雑。原因は土壌環境の悪化だけではないかもしれない。湖底をきれいにしたところで、それですべて解決するとは限らない」と指摘する。

さらに、対策にはどの機関が責任を持つかが明確になっていない。県琵琶湖政策課によると、同地域は県が条例で「ヨシ群落保護地区」としており、ヨシの保全、保護の施策ならば県が行うが、ハス保護の根拠となる法令はないという。

また湖で工事などをするための河川法では、洪水などの防災対策は行えるが、今回は当てはまらない。ハス再生の主目的は、観光資源の復活と位置づけられるからだ。

県は「もともと自然にあったものを観光に使っているので、どこが管理の責任者なのか定義が難しい」(同課)と距離を置き、観光資源復活を目指す草津市も「県や近隣市と協議しないと動けない」という。

漁業関係者の懸念

何とも融通のきかない状況だが、さらに複雑なのは、地元でもハスの復活が必ずしも望まれていないということだ。

「ハスが増えればいいというものではない」と、守山市の漁業組合の関係者は話す。同組合はハスの群生地近くの赤野井湾でフナやコイを捕っているが、ハスの葉や茎が湖底に堆積すると、「腐ってヘドロになり、水は濁るし臭くなる。魚の生息環境も悪くなる」と懸念する。

漁業関係者は「赤野井湾はフナ、コイの産卵場所として貴重」といい、「きちんと手入れしてくれるなら、ハスと共存共栄を図りたい」としているが、行政当局との協議はこれからだ。

行政上の課題や関係者の思惑が複雑に絡み合ったハス消失問題。先行きは、レンコンのようにはすっきり見通せていない。

自滅かい。