官能小説朗読ライブ、想像超える反響 映画「君の名は。」で話題の飛騨市図書館:イザ!

凄い時代になったもんだ・・・

【関西の議論】

ハッと息をのむ中年男性、はにかむ女性の姿も。富山県との境の山里にある岐阜県飛騨市の市図書館で8月末、浴衣姿の女性司書3人による「官能小説朗読ライブ」が開かれた。蔵書の朗読会などのイベントは無料で毎月開いているが、官能小説を取り上げたのは初めて。ライブはネットなどで事前に話題となり、通常の倍の70人を超える人が参加、谷崎潤一郎や姫野カオルコさんの作品の妖艶(ようえん)でなまめかしい朗読に聞き入った。図書館をはじめとする市内の施設や風景は、公開中の長編アニメ映画「君の名は。」の舞台として登場することでも脚光を浴びており、今回のライブで二重に注目された格好だ。(三宅有)

浴衣姿で“悩殺”

ライブがあったのは8月27日夜。飛騨市内はもとより愛知県や三重県などから老若男女が集い、急遽(きゅうきょ)、座席を増やすほどの盛況ぶり。しかし会場はひたすら静かで、読み手の息づかいはもとより、浴衣のきぬ擦れの音が聞こえるほどだった。

読み手のひとり、西倉幸子館長(34)は「みなさんから一言一句聞き逃さない感じが伝わってきて、経験したことのない緊張感が漂っていた」と振り返った。

そんな独特の雰囲気の中、ライブではまず堀夏美さん(26)が、姫野カオルコ著「短編集H」から「正調・H物語」を朗読。平家物語をモチーフにしたつやっぽい物語に、聴衆は一気に引き込まれた。

続いて、「家族にばれないように自転車の車庫で朗読の練習をした」という村田萌さん(29)が、川上弘美著「溺レる」から「可哀相」を朗読。トリは西倉館長で、谷崎潤一郎の「刺青」を、「女は黙って頷(うなず)いて肌を脱いだ。折から朝日が刺青の面に差して、女の背(せなか)は燦爛(さんらん)とした」と情感たっぷりに読み上げた。

聞き手も緊張した様子だった。堀さんは「読んでいるときは無心でしたが、笑ってほしいところでも、クスリともない。やや動揺した」。村田さんも「身動きひとつしないで聞き入ってくれた。ライブというのに反応がないので『どうしよう』と不安になったが、読み終えたときは達成感と脱力感、サウナ上がりのような爽快感があった」と話した。

一方、男性の参加者からは「正直言ってスケベ心もあってきた。しかし、知的ないい緊張感もあり、心地良かった」との“本音”も。女性の参加者は「良い意味で期待を裏切られた。日本の文学の美しい表現に改めて気づかされた」と感想を語った。

市教委はすんなりOK

ライブは大成功だったが、企画段階ではやはり異論もあったという。

当初、読み手は劇団員らプロに依頼したが、スケジュールの都合で断られ、企画自体、いったんは立ち消えになった。発案者の堀さんはこのとき「正直、ホッとした」という。「友人に話したら、『なにそれ!下品じゃない』って言われましたから…」。

しかし、「これまで図書館に縁のなかった“新しい人”にも来てほしかった。やはりエッジの効いたことをやってみたい」とあきらめきれなかった。思い切って市教育委員会に企画書を出すと、これがすんなり通った。「えっ、本当に大丈夫なの?」と、改めて市教委に確認したという。

読み手については、「いないなら、自分たちで読んじゃおう」と西倉館長が言い出した。「図書館所蔵の本を読むんだし、ごく自然に抵抗なくできるはず」(西倉館長)。ということで館長と堀さん、さらに過去の朗読会で読み手を務めた村田さんの3人が一肌脱ぐことに。

平成21年に新築移転された市図書館は鉄筋3階建てで、蔵書は約8万冊。山間地にあるため、本や図書館をもっと身近に感じてもらおうと、これまで朗読会に加え、ジャズの演奏会や蓄音機ライブなども開いてきた。

思わぬ反響

「すげー」「飛騨市図書館やるー」。今回の官能小説ライブはポスターや図書館のホームページ、フェイスブックなどで告知。すると、想像を超える反響があった。

当日は都竹淳也市長も聴衆の一人として参加した。都竹市長は「朗読会として、とても質の高いものだった。既成のしばりにとらわれずチャレンジした図書館と教育委員会にあっぱれです」と企画を評価。さらに「(図書館には)知の拠点としてだけでなく、地域活性化の拠点としても期待してる。これからも、自由な発想でどんどんやってほしい」と支援を約束した。

アニメ映画「君の名は。」の舞台として脚光

市は人口2万5000人余り。森林面積が93%を占め、冬は豪雪に覆われる。良質な水を生かした清酒造りや和ろうそくの生産が盛んで、市街地には白壁土蔵や町家の古い町並みが残る。

県北部の飛騨地方では「小京都」と呼ばれる高山市や下呂温泉のある下呂市が知られるが、最近は「飛騨の奥座敷」と呼ばれる飛騨市もその日本的な風情が口コミで広まり、外国人観光客が増えるなど人気だ。

また同市は長編アニメ映画「君の名は。」に図書館をはじめ駅や神社が登場することもあって、ファンが“聖地巡礼”で押し寄せている。

最寄り駅の前でスマホをたよりに図書館を探していた横浜市の男子大学生は「あの朗読会で飛騨市を知った。あの映画の図書館だったので一度、来てみようと思った」と話していた。

「君の名は。」のヒットに加え、官能小説ライブが注目されたことで、改めて趣深い山里に注目が集まった格好だ。市図書館には、次回の朗読予定の問い合わせが続いている。西倉館長は「やらないわけにはいかない」と、今回のような企画を計画中という。

とりあえず次回10月22日は「魔女の集い」と題し、「薬草茶づくり」のイベントを開く。地元に残る秘伝の薬草茶は滋養強壮に効果があるかも。

寄りにもよって、官能小説か・・・